王冠が選んだ厩番
「所有者の名しか読めない鑑定士など、盗品係にでもなれ」
遺物探索隊長ウルガはオルフェナを王墓から追放した。
【所有鑑定:物が自ら認めている所有者の名を表示する】
性能も年代も価値も分からない。拾った者と持ち主が違えば揉め事を増やすだけだと、仲間たちは笑った。
王都へ戻ると、宮殿は継承争いのただ中だった。
急死した王に子はなく、三人の公爵が玉座を求めている。血統を証明する《黎明の王冠》だけが王墓から運び出されたが、誰がかぶっても光らない。隊長ウルガは「魔力が尽きた」と報告した。
三公爵はそれぞれ私兵を宮門へ集めていた。日没までに継承者が決まらなければ、王都は三つの軍に裂かれる。広間の窓からは、槍の穂先が増えていくのが見えた。
女王代行メルシェラが、広間の端にいたオルフェナへ気づく。
「そなたも探索隊の鑑定士だな。王冠を見よ」
ウルガが遮った。
「無能ゆえ、すでに追放しました」
オルフェナは王冠へ指を添えた。表示された名は、公爵の誰でも、死んだ王でもなかった。
――所有者:トーマ・ベルン。
「誰だ、それは」
貴族たちが騒ぐ。近衛隊が名簿を探し、やがて一人の少年を連れてきた。城の厩番で、姓すら持たぬはずの孤児だった。
少年は震えながら言う。
「その名は、母が死ぬ前に一度だけ……父からもらった名だと」
ウルガは笑った。
「王冠が孤児を所有者と呼ぶものか。鑑定の誤りだ」
オルフェナは王冠の内側に、馬の毛が一本挟まっているのを見つけた。墓から運ぶ前、誰も触れていないはずの場所だ。少年が近づくと、王冠は彼の手へ飛び、夜明け色の光を放った。
亡王は若いころ、身分を隠して北の牧場へ通っていた。少年の母は、王家の紋を刻んだ古い手綱を残していた。王冠は血だけでなく、王が自ら託した名を覚えていたのだ。
三公爵が一斉に膝をつく。ウルガだけが後ずさった。
メルシェラは少年の頭へ王冠を置き、次にオルフェナへ向き直った。
「価値も力も見えぬ鑑定士、と申したな」
女王代行は、探索隊長の胸から王墓の鍵を外した。
「王が死んでも消えぬものを読める者に、宝物庫を預ける」