王国一つを案山子が守る
案山子番ドムナは、収穫祭の日にも畑の端に立っていた。
鳥を追うだけの職業は、成人鑑定で最下位とされた。領主の息子は案山子へ自分の古服を着せ、ドムナを「棒より役に立たない男」と笑った。だが彼は、雀が食べる一粒と、兵が奪う一袋の違いをよく知っていた。
技能説明は短い。
【実り守り:指定した畑から、収穫を奪う者一種を畑の外へ追い払う。数と大きさは問わない】
秋、隣国軍が国境を越えた。狙いは城ではなく、豊作になった麦だった。敵兵は村々の穀倉を空にし、抵抗した農民を荷車へ縛る。王都の騎士団は貴族の邸宅を守るため動かず、領主は「民より麦を取り戻せ」と命じた。
ドムナが案山子を担いで街道へ出ると、領主の息子が笑った。
「そんな棒で王国全部を守る気か。父上の土地は端から端まで一枚の畑だぞ」
その言葉で十分だった。
王国の土地台帳にも、すべての領地は《王冠の大農園》と記されている。ならば国境の内側は一枚の畑だ。
ドムナは国境石へ案山子を立てた。追い払う相手として選んだのは、収穫を奪う侵略兵。
風が一度、麦穂を撫でる。
案山子の影が地平線まで伸びた。穀倉を荒らしていた兵も、城門を囲んだ騎兵も、将軍の天幕にいた者も、見えない鳥追いの音に顔を上げる。
次の瞬間、敵兵だけが風にさらわれた。
剣も鎧も身体もまとめて空を飛び、国境の外へ次々と放り出される。奪った麦袋や縛った村人は畑の実りであり、畑の持ち主だから、その場に残った。敵王の巨大な移動要塞まで地面を滑り、国境線の向こうで逆さに止まる。
領主の息子は腰を抜かした。彼が案山子に着せた上着だけは、持ち主へ返るよう胸元へ飛んできた。
静かになった麦畑で、農民たちは自分たちの穀物を拾い上げた。
国境の外へ放られた敵軍は食料も人質も失い、その日のうちに降伏した。領主が所有権を主張すると、農民たちは《王冠の大農園》と書かれた台帳を彼の目の前で破る。案山子には古服の代わりに、救われた二十の村から一本ずつ麦穂が結ばれた。
《職業が【案山子番】から【国土豊穣守】へ書き換わりました》