王妃の部屋を掃く

王が亡くなって七日、王妃の寝室には灰色の埃が積もっていた。

窓を閉めても、床を磨いても、悲しみのある部屋には埃が降る。それを銀穂の箒で掃けば、部屋の悲しみは消える。代わりに、掃いた者の胸へ同じ重さが移る。

だから誰も、王妃付きの侍女マグリットから箒を受け取ろうとしなかった。

正午には、幼い王子の戴冠がある。王妃が玉座の隣へ立たなければ、王子を認めない貴族が騒ぎ出す。それでも王妃は寝台の端に座ったまま、王の片方だけ残った室内履きを抱いていた。

「立てないの」

命令ではなく、謝罪の声だった。

床の埃は足首まで積もっている。王妃が一歩動くたび、灰色の波が裾を引いた。

マグリットは王の死を悲しんでいなかった。廊下ですれ違えば頭を下げるだけの相手で、顔も横顔しか思い出せない。だからこそ、自分なら耐えられると思っていた。

けれど銀穂の箒に手をかけたとき、王妃が言った。

「これは、あの人を失った悲しみだけではないわ」

王妃の指が、空の室内履きを撫でる。

「愛していたのに、最後の朝、政務のことで喧嘩をした。謝らなかった。病床へ呼ばれたときも、意地を張って少し遅れた。間に合わなかった。その全部よ」

後悔まで含めた悲しみだ。掃えば、マグリットは自分のことのように、二度と謝れない痛みを背負う。

彼女には明日、城を辞める妹がいる。昨夜、「どうせ姉さんは王宮のほうが大事」と言われ、腹を立てたまま別れた。今朝も顔を合わせていない。

その小さな喧嘩が、埃の下から自分を見上げた。

戴冠の鐘を試す音が遠くで鳴った。

マグリットは王妃の前へ膝をつく。

「悲しみは消えません。私のところへ移るだけです」

「あなたが苦しむわ」

「はい。それでも、殿下の隣に立ってください」

箒を一度動かすと、灰色の埃が銀穂へ吸い寄せられた。二度、三度。床の模様が現れるたび、胸の奥へ冷たい水が溜まる。

最後の一筋を掃き取った瞬間、王妃は息を吸い、ゆっくり立ち上がった。

同時にマグリットの膝が床へ落ちた。

会ったこともないはずの王の声が恋しくて、謝れなかった最後の朝が、自分の人生で最も悔やまれる出来事のように胸を裂いた。

王妃は扉へ向かう。マグリットは箒を抱きしめたまま、まず妹の名を呼ぼうとした。

けれど声になる前に、王妃から受け取った嗚咽が、喉いっぱいにあふれた。