王様は地下で待っている
廿楽家の祖父は、金庫の鍵を隠して死んだ。遺言には一行だけ。
〈王様は地下で待っている。地上へ連れ出した者に、金庫を開ける権利を与える〉
長男の礼央は地下室の扉を見つめた。
「王様って、純金の像だろう」
妹の小夜は首を振った。
「祖父は裏社会とつながっていたのかも。“王様”は組織のボス」
「八十六歳の盆栽仲間に裏社会が?」
「盆栽は隠れ蓑よ」
「葉しか隠れない」
地下室には、古い家具、ワイン樽、段ボールが積まれていた。従兄たちも集まり、捜索はすぐ競争になった。
「王様を見つけた人が家来を指名できる?」
「相続人を封建制度へ戻すな」
「金庫が国庫なら?」
「祖父ちゃんの年金しか入ってない可能性もある」
「王国の規模が急に現実的だな」
礼央は階段に見張りを置き、小夜は発見物へ番号札を貼った。
「王冠の形をした物を探せ!」
「王様本人なら失礼でしょ」
「陛下ー、いらっしゃいますかー」
「敬語で誘拐するな」
礼央が大きな木箱を見つけた。
「重い。中に像がある」
「先に開けたら権利を独占する気ね」
「確認だ」
「透明性のある確認を」
「では全員で」
「人数分だけ指紋が増える!」
箱を開けると、冬用の布団だった。小夜が別の棚から王冠を発見したが、裏に〈誕生日会用〉と書かれている。ワイン樽の銘柄は〈キング〉、古い掃除機は〈キングパワー〉。見つかるたび、家族はそれを抱えて階段を駆け上がった。
「ワインを地上へ運んだ。私が相続人!」
「“王様”ではなく商品名」
「掃除機のほうが王として働いている」
「吸引力で統治するの?」
最後に、礼央は棚の下から黒い駒を拾った。
「チェスのキングだ」
「そんな小さいもの?」
「祖父ちゃん、毎晩これで遊んでた」
だが、盤にはすでにキングが一つ置かれていた。
「二人いる」
「片方は替え玉?」
「王位継承戦ね」
「駒で昼ドラを始めるな」
小夜が拾った駒を階段の上へ置くと、底から小さな鍵が落ちた。
一同は歓声を上げ、金庫を開けた。
中にはチェス大会の参加申込書と、優勝賞金十万円の案内。
弁護士が言った。
「権利を与える、としか書いてありません。財産が入っているとは一言も」
王様が守っていたのは、次の一局だった。