生放送はCMに入らない

人気俳優の岳人は、夫婦共演の特別番組で乃々花の手を振り払った。

「視聴者の前だから言う。俺たちは今日で終わりだ。真怜と再婚する」

客席がどよめき、共演女優の真怜が涙を浮かべて彼へ寄り添う。岳人は乃々花を「家庭に執着して仕事を邪魔する妻」と呼び、二人の関係は撮影終了後に始まったのだと断言した。

「証拠もないのに疑われ続けた。俺こそ被害者だ」

司会者が青ざめてCMを告げる。岳人は満足そうに舞台袖へ戻った。

「完璧だったでしょ」

真怜が囁くと、岳人は彼女の腰を抱いた。

「三か月もホテルを変え続けた甲斐があった。乃々花は離婚したら芸能界にいられない。違約金もあいつに被せる」

「でも、さっきからマイクの灯りが――」

「ああ、俺の指示だ。CM中も切るなって言ってある。自然な舞台裏を配信用に使えるからな」

岳人の笑顔が止まった。

舞台袖のモニターには、二人を映す生配信画面がある。番組公式サイトの視聴者数は一秒ごとに増え、コメント欄には、彼が口にしたホテル名と期間が切り抜かれて流れていた。自動字幕には《三か月》《妻に被せる》という言葉が太字で残り、削除依頼より早く報道各社へ転載されていく。

乃々花は何も仕掛けていない。岳人が「俺の声を一秒も無駄にするな」と制作会社へ提出した指示書が、そのまま守られただけだった。しかも指示書には、放送中の全音声を番組資産として保存するという彼の電子署名がある。

岳人は音響係へ怒鳴った。

「今すぐ消せ! 責任者を呼べ!」

「責任者なら、こちらです」

乃々花の隣へ芸能事務所の社長が現れた。岳人の契約には、既婚者である期間の不貞と虚偽会見によって生じる損害を本人が負う条項がある。更新時、乃々花を縛るために岳人が追加させた条項だった。

真怜がマイクを床へ捨てた。その音さえ全国へ響いた。

社長はCM明けを待たず、赤い封筒をカメラの前で開いた。

「所属俳優・岳人および真怜に対する、虚偽説明と重大な契約違反による即時解雇通知を読み上げます」