白紙の配達札

王国の急使局では、翼魔族フィネカを「空路七号」と呼んでいた。

足首の真鍮環へ行き先札を差し込めば、嵐でも矢の雨でも、そこへ着くまで飛び続ける。翼が裂けても止まれず、配達後にだけ痛みを許される。羽根の何枚かには過去の配達先が焼きつき、戦場、処刑台、疫病村という文字が消えずに残っていた。

局長の不正が露見し、彼女の所有環は地方郵便長ガロウへ押しつけられた。

「新しい行き先を書いてください」

フィネカは無表情で片膝をつく。真鍮環には、ガロウの名を刻むための空欄があった。

彼は札を入れず、工具箱から細い釘抜きを出した。

「環を外したことは?」

「外そうとした者は、翼が石になりました」

「では環ではなく、命令の差し口を外す」

真鍮環の継ぎ目ではなく、札を読み取る小さな爪へ工具をかける。爪は王家の封蝋で固定され、壊せば郵便長の職も失う仕組みだった。

ガロウはためらわず引き抜いた。

封蝋が砕け、命令爪が床へ跳ねる。環は残ったが、どんな札を差してもただ抜け落ちる。フィネカの翼から、石のような灰色が消えていった。

「北へでも南へでも行け」

「それは命令ですか」

「道案内だ。従う必要はない」

彼女は窓枠に片足を掛けたまま、しばらく動かなかった。命令なしで飛ぶには、最初の一羽ばたきを自分で決めなければならない。やがて真鍮環を鳴らさず、彼女は窓から飛び立った。

同じ午後、雪崩で山村への街道が閉じた。村では熱病が広がり、薬箱は郵便局にある。ガロウは自分で峠を越える支度をしたが、老いた脚では夜までに着けない。

屋根の上で羽音がした。

フィネカが戻っていた。自由になって最初に見た海の塩を髪につけたまま、薬箱を抱える。

「行き先札はないぞ」

「見れば分かります」

「戻る義務もない」

「それも分かっています」

彼女は机から白紙の配達札を一枚取り、初めて自分の手で書いた。

――山村。薬を待つ人のところへ。

札は環へ入らず、彼女の胸ポケットへ収まった。フィネカは予備の短剣をガロウへ柄から預け、翼を広げる。

「これは所有の印ではありません。帰ってくる場所の目印として、預かってください」

命令爪のない真鍮環が、飛び立つ風の中で初めて静かだった。