眠らない保育室

午前一時、閉鎖された保育室を小さな子どもが横切った。

園は改修工事のため一週間休みで、子どもは一人もいない。ところが寄付金の入った金庫が開けられた夜、監視カメラには黄色い兎の寝巻きを着た影が映っていた。影は遊具の家の裏へ入り、そこから先はカメラの死角になる。数分後、金庫の扉だけが開いていた。

夜警は、置き忘れた人形が動いたのではないかと冗談を言った。園長は笑わなかった。黄色い寝巻きは、発表会で使う衣装と同じものだった。

映像の影には手が見えない。長すぎる袖に隠れているようだった。足元も布で覆われ、歩くたびに四本の細い線が床へ残った。園長は、兎の爪を模した飾りだろうと言った。

もう一つ妙なのは、動体検知灯が点かなかったことだ。人が遊具の前を通れば赤く光るはずなのに、影の上だけランプが暗い。夜警は工事の粉でセンサーが曇ったのだと説明した。

遊具の家の裏には大人一人がしゃがめる空間があり、金庫までカメラに映らず進める。ただし、入口には粘着式の防塵マットが敷かれている。そこには靴跡がなく、四本の細い車輪跡だけが残っていた。

寄付金は園舎の修繕に使う予定で、現金の保管場所を知るのは園長と夜警だけだった。夜警は、子どもの影を見て怖くなり監視室から出なかったと話した。だがその時間、監視室の入退室センサーは一度だけ開閉を記録し、本人は「風圧の誤作動」と片づけていた。

私は衣装倉庫から兎の寝巻きを持ち出した。子ども用にしては胴が不自然に膨らむ。中へ折り畳み式の洗濯かごを入れると、映像と同じ輪郭になった。

清掃用の自走カートに衣装を被せ、予約時刻に保育室を横切らせる。人の体温を測る検知灯は点かないが、輪郭を追うカメラだけは黄色い影を中心に画角を少し左へ振る。その瞬間、右端に新しい死角ができ、職員通路から金庫へ近づける。

夜警は、影が遊具の裏へ消えたとき、ずっと監視室にいたと言った。しかし自走カートの運行予約は、夜警の端末からしか設定できない。

午前一時、保育室を横切った小さな子どもを探しても見つからない。

黄色い寝巻きの中に、子どもはいなかったからだ。

四本の線は兎の爪ではなく車輪の跡で、カメラが追いかけた「侵入者」は、真の侵入者からレンズをそらすための洗濯かごだった。