祖母の荷物をほどく

梨央は思い出を写真に残す。姉の英里は、残すものを増やすほど身動きが重くなると言う。祖母が施設に入ったあと、二人の部屋には段ボールが四つ届いた。

一箱目は食器、二箱目は裁縫箱、三箱目は古いタオル。四箱目に、姉妹宛てのメモが貼ってあった。『好きに使って。捨ててもいいよ』。祖母の字は、昔より少し細かった。

「捨ててもいいって」

英里が言う。

「それは本当に捨てていいって意味じゃない」

梨央はスマホを構えた。英里は軍手をした。

「全部撮ってどうするの」

「忘れたくない」

「忘れないために、全部置いておく場所はない」

言い合いながら、二人は四箱目を開けた。中には、同じ柄のエプロンが二枚入っていた。子どもの頃、祖母の家で餃子を包むときに使っていたものだ。梨央のほうには醤油の染み、英里のほうには小さな焦げ穴がある。

梨央は泣きそうになった。英里は泣かなかった。代わりに、エプロンを畳んでごみ袋ではなく洗濯かごに入れた。

「使うの?」

「使えるものは使う」

「思い出としてじゃなくて?」

「思い出って、使ったら減るの?」

その聞き方が英里らしくて、梨央は笑ってしまった。二人はエプロンを洗い、ベランダに干した。夕方の風で、二枚がばたばたとぶつかる。梨央は写真を一枚だけ撮った。英里は段ボールを畳み、資源ごみの日の場所を調べた。

夜、二人は祖母の裁縫箱から針を出し、焦げ穴に別々の色の糸を通した。梨央は丁寧に、英里は大きく。縫い目は揃わなかった。それでも、二人は同じエプロンの端を持ち、ほどけた糸を結んだ。

施設へ行く日、梨央はエプロンを紙袋に入れた。英里は「見せるだけ。置いてこない」と確認した。祖母に何を渡すかではなく、何を持ち帰るかでまた意見が割れた。それでも二人は、補修した縫い目を上にして、袋の中で折れないよう同じ手で支えた。

祖母は縫い目を見て、「へたね」と笑った。梨央は少し傷つき、英里は「使う分には丈夫」と返した。その返事に、祖母はもう一度だけエプロンを撫でた。