秤の上の魔王便

「荷物は秤に載せてください」

王都速達ギルドの受付係タバサは、荷紐を結ぶのが異様に速かった。

宛名の滲みを直し、割れ物には藁を詰め、料金をごまかす商人には一グラムの超過も許さない。朝には泣く子へ母親の手紙を届け、昼には溶けかけた氷菓子を北国へ送り、夕方には「今日中」の無茶な注文を笑顔で断る。

肩に乗る配達猫のポルだけが、彼女の指から時々、世界地図と同じ形の光が出るのを知っていた。

雨の夕方、黒い木箱が運び込まれた。

送り主も宛先も空欄。若い運び屋が「拾った」と言い残して逃げると、箱の中から低い笑い声がした。

蓋が吹き飛び、角を持つ魔王の影が天井まで膨らむ。

千年前、七つの国を焼いた《無帰王》だ。封印を壊した何者かが、王都の中心へ届けさせたらしい。

客たちは恐怖で凍った。

ポルだけは受付台の下にいたため、タバサが退屈そうに伝票を一枚抜くところを見た。

「宛先不明では受け取れません」

魔王が炎を吐くより早く、彼女は伝票の宛先欄へ小さく一行書いた。

《差出人へ返送》

受付印が、ぽん、と鳴る。

炎も咆哮も巨体も一度に細く折り畳まれ、黒い木箱へ吸い戻された。内側から魔王が爪を立てたが、タバサが荷紐を十字に結ぶと音は途絶える。結び目は、速達ギルド創設時の紋章――世界を一周する翼の形になった。

彼女は箱を秤へ載せる。

針は《重量:一国分の罪》を示したが、運賃欄には銅貨三枚と記した。

創設者特別割引、と古い印が押される。その印に刻まれた名は、初代総配達人タバサ。街道も転移門もなかった時代、世界で最初の荷を届けた人物だった。

止まっていた客たちが瞬きをすると、床に転がっていた蓋も焦げ跡も消えていた。料金掲示板もずれず、受付の砂時計さえ一粒ぶんしか進んでいない。彼らには、箱の検査で少し待たされた記憶しかない。

タバサはポルの口元へ指を立てる。

猫は賢く尻尾を巻き、何も見なかった顔であくびをした。

次の客が、大きな旅行鞄を抱えて窓口へ来る。

タバサは空いた秤を軽く叩いた。

「荷物は秤に載せてください」