窓際のモーニング

モーニングセットの卵には、針の先ほどの穴があった。

喫茶店の窓際で、常連客がコーヒーカップを握ったまま死んでいた。皿には半分残ったトーストと目玉焼き。新聞は経済面を開き、店内には眠そうな音楽が流れていた。カウンターには洗い残したビールの泡跡があり、灰皿の下から当日の試合結果を印刷した紙がのぞいていた。

給仕係は、客が来たのは八時少し前だと証言した。いつもの席で、いつものモーニングを頼み、卵を切った直後に胸を押さえたという。入口の時計は八時七分で止まり、窓にはブラインドが下りていた。

疑われた共同経営者には、朝七時から九時まで通勤電車に乗っていた記録があった。改札履歴と車内の防犯映像に姿が残っている。卵を納めた業者も、午前六時半に店を出たあとは別の市場にいた。

刑事は皿を調べ、毒が卵の穴から注がれたと考えた。給仕係なら配膳直前にできる。しかし彼女は厨房の映像に映り続け、客の皿へ近づいたのは運んだ一度だけだった。

卵は客が持参したものではない。厨房の殻入れを調べると、同じ穴のある殻が一つだけ抜き取られていた。共同経営者は仕入れ管理を担当し、店の裏口にも自由に入れた。それでも通勤電車の映像が、刑事の考えを朝から動かさなかった。

カウンターの端には、洗い残したビールの泡跡があった。灰皿の下からは、当日行われた野球の試合結果が印刷された小さな紙が出てきた。試合は午後五時に終わっている。刑事が新聞を持ち上げると、それは朝刊ではなく夕刊だった。経済面だけが同じ配置だったため、誰も気づかなかった。

店の看板には大きく「モーニング」とある。だが営業時間は午後七時から午前四時。夜勤者向けに、開店から一時間だけ朝食風のセットを出す店だった。

止まった八時七分は午前ではなく午後。共同経営者の朝の乗車記録は、完全な空白を隠す飾りにすぎなかった。

刑事が卵の殻を差し出すと、共同経営者は初めて窓を見た。ブラインドの隙間には朝日ではなく、向かいの映画館の最終上映案内が光っていた。

窓際のモーニングは、一日の始まりではない。彼が店を奪うために選んだ、夜の最初の皿だった。