竜殺しを飲み干した男

薬草採りのジアン・ペルモは、洞窟で黒い小瓶を見つけた。

札には大きく〈竜殺し〉

「伝説の猛毒だ」と同行の錬金術師が叫んだ。

その拍子にジアンは瓶を落としそうになり、反射的に口で受けた。栓が外れ、中身が喉へ流れ込む。

一分。二分。何も起きない。

ジアンは恐る恐る胸を張った。

「どうやら俺には毒が効かない」

錬金術師は青ざめた。

「竜さえ殺す毒を?」

「昔から胃腸は丈夫だった」

「胃腸の問題ではありません」

「つまり全身が胃腸なのかもしれない」

「強さの説明として最悪です」

町へ戻ると、噂は王宮まで届いた。国王直属の毒見役が迎えに来る。

「不死身殿、陛下の食卓をお守りください」

「俺が一口食べれば安全が分かる」

「ただし毒が効かないなら、毒の有無も分からないのでは?」

「そこは経験で」

「経験、今朝一回ですよね」

「伝説は回数ではない」

宮廷薬師は試験用の皿を並べた。

「こちらは眠り薬入り」

「飲もう」

「こちらは舌が青くなる薬」

「飲もう」

「こちらは普通のスープ」

「それも飲もう」

「単に腹が減っていませんか」

「不死身にも昼食は必要だ」

ジアンはすべて平らげた。眠らず、舌も青くならない。

家臣たちはどよめいた。

「本物だ!」

「毒を吸収して消した!」

「王国最強の肉体!」

ジアンは玉座の脇で腕を組んだ。

「今後、暗殺者は俺を見ただけで諦める」

宮廷薬師が首をかしげる。

「試験薬まで効かないのは妙です」

「効かないから最強なのだ」

「眠り薬を入れた皿は、どれでした?」

「左から二番目」

「それ、さっき侍従が下げました」

「では舌の薬は?」

「調理場に置いたままです」

「今食べたものは?」

「全部、普通の昼食です」

家臣たちの視線が冷えた。

ジアンは最後の砦として黒い小瓶を掲げた。

「だが〈竜殺し〉を飲んだ事実は残る!」

洞窟から遅れて来た商人が、瓶の折れ曲がった札を伸ばした。

〈竜殺し亭 特製ぶどうジュース〉

「店の試供品です」と商人。

ジアンは味を思い出した。

「確かに甘かった」

不死身の毒見役は、その日の食費だけ免除された。