竜騎士の小さな浮き

竜騎士団を解雇されたオルフェンが受け取ったのは、山奥の沼と、傾いた厩舎だけだった。

相棒だった老竜グラウは、王家の財産として取り上げられた。空を失った竜騎士に沼を与えるとは、なかなか気の利いた嫌がらせだ。

初日の昼、オルフェンは岸に座り、木片を小刀で丸く削った。作っているのは竜笛でも矢羽根でもない。赤い木の実を頭に付けた、小指ほどの浮きだった。

厩舎に残っていた馬糸をより、曲がった針を石で磨く。大空では風の筋を読むことにかけて、彼の右に出る者はいなかった。今は風ではなく、葦の隙間に生まれる小さな水の輪を読む。

最初の一投は近すぎた。二投目は沼草へ引っかかった。三投目、赤い浮きが葦の影をゆっくり流れた。

こつん、と沈む。

反射的に腕を上げかけ、オルフェンは力を緩めた。竜の手綱なら強く引けば従ったが、この細糸は切れてしまう。魚が走る方向へ竿を寝かせ、疲れるまで待つ。

竿を立てるたび、過去の空戦が頭をよぎった。敵竜を落とすときは、相手より先に力尽きさせるまで追い詰めた。だがこの魚には、逃げる余地を残してやれる。勝つためではなく、食べる分だけを得ればよい。

水面を割ったのは、丸々太った黒鱒だった。

「空より狭いのに、ずいぶん暴れるな」

笑いながら抱え上げると、泥が胸当ての跡へ跳ねた。その汚れを拭う必要は、もうなかった。

夕方、厩舎の壁を風除けにして火を起こした。鱒へ切れ目を入れ、塩と山椒に似た実をすり込む。鉄鍋で焼くと、皮の下の脂がじゅわじゅわ鳴った。沼の青臭さは消え、香ばしい湯気が頬を撫でる。

王都から飛竜便が降りたのは、そのときだった。使者は竜騎士団の再編成を告げ、隊長職へ戻れという書状を掲げた。

オルフェンは署名欄を見もせず、書状を裏返して鍋の蓋の下へ置いた。風で飛ばないようにするには、ちょうどよい紙だった。

「返答を」と使者が促す。

「浮きの塗料が乾いてからだ」

彼は焼けた黒鱒を割った。白い身から上がる湯気は、竜の鼻息よりずっと小さい。それでも今夜、彼が待ち望んだものは、空から来た命令ではなく、その一口だった。