縫い目から朝が来る

河川敷の高架下に張られた大きな天幕は、夜の雨で中央から裂けた。そこでは家を失った若者たちが、支援団体の巡回が来ない夜だけ身を寄せていた。

大峯彰良は一週間前から、天幕の外に小さなテントを張っていた。共同財布の千円札が消え、誰も犯人を決められないまま、いちばん新入りの彼だけが食卓から離れた。

台風が近づく午後、国見都和が太い針と釣り糸を持ってきた。

「外から押さえて」

「俺が触ると、また何かなくなるぞ」

「布は逃げない」

彰良は返さず、脚立へ上った。都和が内側から裂け目を合わせ、彰良が外から糸を通す。風にあおられるたび布が頬を打ち、針先が指へ刺さった。血がつくと、都和は自分の袖で拭いた。

途中で糸が絡まり、二人は天幕を挟んで引っ張り合った。顔は見えない。都和が「右」と言えば彰良が右へ寄せ、彰良が「待て」と言えば都和が手を止める。その繰り返しで、裂け目は不格好な稲妻の形に閉じた。

上から青い防水布をかぶせ、四隅をロープで固定する。最後の結び目を締めたとき、雨が落ち始めた。

夜、天幕の中では鍋が煮え、消えた金の話は出なかった。疑いが晴れたわけでもない。彰良は外のテントへ戻ろうとした。

入口脇に、彼の寝袋が畳まれていた。縫い目の真下ではなく、いちばん雨の当たらない柱のそばだ。横には都和の靴があり、もう一足ぶんだけ場所が空いている。

鍋の席には、彰良の分の金属皿が伏せてあった。都和は隣へ座らず、少し離れた場所から塩を滑らせた。共同財布は翌日から二人で数え、記録を残すことになった。それは信頼ではなく、疑わなくて済む仕組みだった。彰良はその方がよかった。無理に笑う必要も、潔白を証明する必要もなかった。

夜半、風が強まるたび、彰良は縫い目を見上げた。誰かが起きる前に外へ出ようとしたが、都和が寝たままロープの端を握っていたので、隣で朝を待った。

彰良は濡れた靴をそこへ並べた。縫い目から落ちるはずだった雨音はせず、代わりに誰かの寝息が朝まで続いた。