聖印の外で摘む薬草

聖女リュシアは、癒やしの力が弱くなった日に神殿を追い出された。

二十年も祈り続けた者へ与えられたのは、辺境の丘と崩れかけた礼拝堂だけだった。

けれど丘には、王都で金貨一枚した香草が、雑草のように揺れていた。

初夏の朝。

礼拝堂の鐘は割れたまま、床にもまだ雨染みがある。けれど南の壁際には新しい棚が一つでき、干すための麻紐も張った。昨日までにできたことを数えれば、それだけで朝の祈りより心が整った。

リュシアは露の乾く前に、最初の一列へ籠を持って出た。

今日摘むのは青眠草だけ。薬畑を全部収穫するのでも、礼拝堂を建て直すのでもない。花が開ききる前の穂を、二十本だけ摘む。

親指と人差し指で茎を折るたび、青りんごに似た香りが立った。

神殿では、彼女の手は奇跡を出すための道具だった。今は、自分が飲む茶のために動いている。

二十本を束ね、軒下へ吊るす。束は風を受け、互いに触れてさらさら鳴った。神殿の香炉より淡い匂いなのに、息を吸うたび胸の奥まで届く。残した一枝から、小さな花を三つだけ鍋へ落とした。

そこへ白馬の司祭が来た。

「聖女様、大神官がお許しになりました。都で熱病が広がっています。直ちにお戻りください」

彼は紫の紐で閉じた召還状を差し出した。

リュシアは受け取り、食卓の端へ置いた。

許すと言われる覚えはなかったが、言い返す気にもならなかった。

湧き水が沸くと、花の色が湯へ溶け、甘い草の香りが礼拝堂に満ちた。

蜂蜜を一匙。硬いパンを炙ると、表面がぱちぱち鳴った。

茶を口に含む。肩の奥に残っていた冷えが、ゆっくりほどけていった。奇跡ではない。ただ、温かいものが温かいだけだった。

「返事を頂かなければ」

「私の力は弱くなったのでしょう?」

「それでも、民が」

「ならば神殿の薬庫を開けなさい。私が何年も書いた処方箋も残っているはずです」

司祭は黙った。

リュシアは二杯目を注ぎ、召還状の上に茶器を置いた。封は濡れない。ちょうどよい敷物だった。

「今日は最初の収穫日です。祈りより先に、夕食にします」

焼いたパンを割ると香ばしい湯気が上がった。

外では青眠草が風に揺れ、摘まれなかった花々が、誰の許可もなく静かに咲いていた。