舞台を照らす三角の光
歌姫ルカナの顔は、舞台に立つと消えた。
王都劇場の新しい魔導灯は真上から強く照らす。客席では鼻の下と目の窪みだけが黒く落ち、どれほど高価な白粉を重ねても、遠くからは平らな仮面にしか見えない。初日の批評には《声は天上、顔は壁》と書かれた。
支配人は化粧係を全員解雇すると怒鳴り、最後に入った下働きのマルナを見た。
前世で舞台メイクをしていた彼女は、白粉を増やさなかった。魔導灯を一つ点け、ルカナを舞台中央へ立たせる。光の落ちる方向を見て、頬骨の上と鼻筋に光を返す微粉を、顎の下と鼻の脇に光を吸う茶粉を置いた。
「顔に泥を塗る気か」
主任化粧師が、マルナの手を叩こうとした。ルカナが止める。鏡前では確かに左右が不揃いだった。だが客席の一番後ろへ移ると、マルナが仕上げた半面だけ、目と頬と唇の位置がはっきり浮いた。白粉を厚くした反対側は、光を全部跳ね返して輪郭を失っている。
マルナは顔全体を同じ三角の配置で仕上げた。使った粉は従来の三分の一。時間は十二分だった。
開演後、ルカナが最初の高音を響かせる。三階席の客まで、彼女が眉を上げ、笑い、涙をこらえるのが見えた。終幕の静寂のあと、拍手が床を揺らした。
支配人は批評家を舞台裏へ連れてきた。批評家は昨日の記事を折り畳み、「顔が歌っていた」とだけ言った。主任化粧師は、魔導灯を弱めたからだと主張する。
照明係が記録板を出した。灯数も明るさも昨日と同じ。違うのは粉の置き場所だけだった。
マルナは脇役の老人、少年、道化にも、それぞれ同じ考えで光と影を置いた。全員を同じ顔にせず、骨格に沿って三角の位置をずらす。二十人の仕上げ時間は従来より一刻短く、白粉の消費は半箱減った。三階席から役名を取り違える客もいなくなった。
翌日の前売り札は一刻で千枚なくなった。昨日マルナを笑った化粧係たちは、自分から彼女の三角印を書き写し始めた。支配人は解雇状を破り、劇団全員の顔図をマルナの前へ積む。
「今季四十公演、全員分を頼む。舞台化粧部の主任として」