茉莉花のない夜会

春の夜会は、茉莉花の香りで満ちていた。

香料師フェリナは、その匂いで激しい頭痛を起こす。自分が調合できない香りはないと期待される立場だから、苦手だとは言い出せなかった。

皇帝キリオスは入場した瞬間、彼女の瞬きが増えたことに気づいた。

「花を下げろ。香炉も消せ」

宮廷長が凍りつく。

「今夜の主題香でございます」

「主題が彼女を苦しめるなら替えろ」

キリオスは反逆者を三代まとめて追放した恐怖の皇帝だ。その彼が、フェリナのこめかみに触れず、冷やした布だけを差し出す。

「額に当てるか」

「自分でできます」

「そうか」

以前、頭痛のときに他人へ触れられるのが嫌だと話したことも覚えていた。

茉莉花が運び出され、代わりに無香の蝋燭が灯る。痛みが引き始めたころ、皇女が舞踏床へフェリナを呼んだ。

「皇帝陛下との最初の舞を。今夜、皇妃候補として発表します」

フェリナは冷布を握った。

「踊りません。発表にも同意していません」

皇女は笑顔を保つ。

「陛下がこれほど特別扱いなさるのです。皆が察していますよ」

「察することと、決めることは違います」

キリオスが楽団へ手を上げた。音楽が止まる。

「舞踏は中止だ」

「一人の気分で夜会を変えるのですか」

「余が変える」

皇女がなお婚約宣言の巻物を広げようとすると、皇帝はそれを閉じた。

「フェリナ。残って音楽を聴くか。庭へ出るか」

「香りの消えた広間で、座って聴きたいです」

キリオスは舞踏床の中央へ二脚の椅子を置かせ、彼女の隣に座った。

再び音楽が始まる。

恐れられる皇帝は、全貴族の前で言った。

楽団が曲を選び直す間、キリオスはフェリナの前から香水をつけた客を遠ざけた。ただし彼女を囲うのではなく、出口へ近い席を空ける。

「いつでも帰れる場所のほうが落ち着くと言ったな」

フェリナが頷くと、皇帝は自分の玉座をその隣へ移した。中央の最上席より、彼女が自分で立ち去れる席を選んだのだ。

「余に愛されていることは、余へ従う義務にならない。フェリナの『踊らない』を、無礼と記録することを禁ずる」