荷運びだけが開ける城門

王都の西門が落ちれば、避難民三千人が魔獣の群れに呑まれる。

だが門を閉じる鎖は、昨日の襲撃で切れていた。騎士たちは城内へ退き、外に残った荷運び人セシルへ怒鳴る。

「せめて荷車を積んで塞げ! お前の仕事は重い物を運ぶことだけだろう!」

荷車三台で、巨象ほどの魔獣を止められるはずがない。それでもセシルは最後の子どもが門を通るまで、逃げずに荷を運び続けた。自分の荷袋は道端へ捨てても、他人の薬箱と食糧袋は一つも置かなかった。

肩の古い痣が熱を持つ。

《条件達成:他人の重荷を一万回運んだ者》

《主人公専用排出枠〈運搬〉を解放》

《現在必要な運搬具を一つ排出します》

セシルは一度だけ引いた。

落ちてきたのは、手のひらに載る玩具の門だった。

《一人用城門》

《使用者が「ここから先へ運ばせない」と定めたものを遮断する》

「一人用だと? 自分だけ隠れる気か!」

騎士の罵声を背に、セシルは玩具を石畳へ置いた。

小さな門は大きくならなかった。代わりに、西門の開口部へ透明な境界が立つ。避難民は何事もなく通れる。荷車も、家畜も、負傷者を背負った兵も通れた。

魔獣だけが、見えない壁へ激突した。

セシルが運ばせないと決めたのは、自分ではない。恐怖と死と、城外の人々を踏みにじるものすべてだった。炎の息も、投げつけられた岩も、境界の前で静止して地面へ落ちる。

群れの首領が角を突き立てた瞬間、反動はその巨体へ返った。角が砕け、後続を巻き込んで坂を転げ落ちる。やがて魔獣は一頭残らず森へ逃げた。

門内から歓声が上がった。先ほど命令した騎士団長が近づき、咳払いする。

「よくやった。正式な門衛として雇ってやろう」

「荷運び人のままで結構です」

セシルは最後に残った老婆の荷籠を受け取った。

「ただし今後、何を背負うかは俺が決めます」

玩具の門に、遅れて王冠の紋章が浮かぶ。

《神域防具〈選別する世界門〉》

《世界初防衛:保護対象三千二百十四名、通過拒否一万八百六体》

《門主権限はセシル一名にのみ帰属》