落ちる王城を仮縫いで止めろ

浮遊王城が墜ち始めたとき、ガディは厨房の天幕を直していた。

城を空へ支える浮遊炉が反乱軍に破壊され、石造りの城全体が城下町へ傾いている。大臣たちは転移陣へ押し寄せ、使用人を蹴り飛ばした。

「平民街は諦めろ。王族だけ逃がせ!」

命令を聞いたガディは、糸巻きを腰へ戻した。彼は祭典の飾り幕を張るだけの下級職で、会議では人として数えられていなかった。

技能表示も、建築士たちの笑い種だった。

【固有スキル《しつけ縫い》:仕上げ前の部材を、正しい位置へ一時的に固定する】

王城がさらに沈む。

尖塔の先が民家の屋根を削り、広場では逃げ遅れた千人が見上げていた。宮廷魔術師は浮遊炉の修復に三時間必要だと言う。地面へ激突するまでは、あと十数秒しかない。

ガディは欄干へ上った。

「何をする!」

大臣が彼の背をつかむ。

「正しい位置に戻します」

「糸で城が支えられるものか!」

確かに石は布ではない。だが祭りの舞台を組むとき、柱も幕も人も、完成するまで仮の糸で位置を決める。技能が示したのは素材ではなく、部材だった。

この王城も、王国という一つの仕立物を作る部材にすぎない。

ガディは空へ向けて長針を投げた。

針は雲を貫き、青空の裏側へ留まる。そこから伸びた白糸を王城の四隅へ走らせ、最後の一端を自分の指へ巻きつけた。

「仮止め、完了」

落下が止まった。町を押し潰すはずだった影まで、石畳の上でぴたりと静止する。泣いていた子どもが顔を上げ、広場の全員が、空に一本だけ張られた白糸を見つめた。

城は町の屋根まであと一腕という位置で、糸に吊られて静止する。あまりの重さにガディの指から血が噴いたが、糸は切れない。大臣たちが転移陣を奪い合う間に、城下の人々は全員広場を離れた。

やがて修復された浮遊炉が唸り、王城はゆっくり元の高度へ戻る。

救助された王が、血まみれのガディへ勲章を差し出した。

彼は受け取る前に、町を見捨てろと命じた大臣の名を告げる。

今度こそ、その声を誰も雑役のものとして扱わなかった。

【職業《装飾幕係》が上位職《天座固定師》へ書き換わりました】