落石谷の半月壁
石切り場へ通じるカイラ谷では、雨の翌日に必ず小石が落ちた。荷車を止めるほどではない、と採石組合は放置していたが、春には拳大の石が運搬人の肩を砕いた。
監督官ダリオは採石場全体を閉じず、危険な曲がり角だけに半月形の防壁を置くと決めた。
費用は荷車の通行回数で割る。一往復につき銅貨一枚。空荷で戻る分は数えない。荷を背負って歩く運搬人、食事を届ける家族、谷を通らない住民は無料。壁造りへ出た一日は二十往復分として帳消しにする。入口には車輪の跡を数える木製計数器を置き、誰でも数字を見られるようにした。
最大の石切り場を持つモルク商会は、書面を突き返した。
「我々が八割払うなら、壁の内側を商会専用の待避所にしろ」
ダリオは首を横に振った。
「八割の石を運ぶから八割払う。それだけです。危険は商標を見て落ちてきません」
肩を傷めた運搬人ジェブが、片腕で計数器の柱を磨き始めた。
「俺は今季、荷を運べない。だから金も取られない。でも数字なら読める。ごまかす車がないか見張るよ」
それを見た御者たちは、自分から車輪を計数器へ通した。石工は余った石を持ち寄り、料理屋は作業日の汁物を半値にした。壁が誰かの所有物にならないと分かったから、協力が広がった。
計数器を置いた初日、モルク商会の車が三台分をまとめて一回として通ろうとした。ジェブは怒鳴らず、車輪が押した三本の木札を皆に見せた。ダリオは罰金を取らず、未記帳の二回分だけを加えた。規則が敵を作るためでなく、同じ通行を同じ一回として扱うためだと分かると、翌日から御者自身が声を上げて回数を読み上げた。
半月壁が完成した翌朝、夜雨で緩んだ岩が斜面を跳ねた。大岩は轟音とともに壁の腹へ当たり、二つに割れて道の両側へ落ちた。内側で休んでいた荷車には、砂一粒も届かなかった。
ジェブは壁の中央へ白墨で一本の弧を描いた。
――この内側では、荷の大きさより命が先。
谷の鐘が鳴り、大小すべての荷車が同じ半月の下を順に進み始めた。