袖口に残った柔軟剤

班別行動の昼、紙コップのオレンジジュースが志麻の白いブラウスへ丸ごと倒れた。

私服行動の日だったから、替えの制服は旅館に置いてある。土産物屋の前で立ち尽くす志麻へ、私は腰に巻いていた灰色のパーカーを差し出した。

「これ着れば」

「あなたは?」

「暑いから平気」

本当は、母に「夜は冷える」と持たされたものだった。志麻は迷った末に受け取り、濡れたブラウスの上から袖を通した。私には大きすぎるパーカーなのに、彼女が着るとさらに袖が余った。

いつもは制服のボタンを上まで留め、ノートの字も定規で引いたように整っている。そんな志麻が、袖口から指先だけ出して歩いていると、知らない人のようだった。

「笑わないで」

「笑ってない」

「顔が笑ってる」

「似合うから」

志麻はフードをかぶり、私の視界から顔を隠した。

班の皆は、志麻が私の服を着ていることにすぐ気づいた。「交換したの」「仲よかったっけ」と面白がられたが、志麻は否定しなかった。代わりに袖の中から親指だけ出し、「今日は臨時の制服」と言った。その言い方が妙に嬉しかった。

寺の石段で、彼女は何度も袖をまくった。写真を撮るときだけ下ろし、店へ入るとまたまくる。信号待ちでは、袖の中から手を伸ばし、私の鞄の紐をつまんだ。人混みではぐれないためだと言った。

旅館へ戻るころには、ジュースの染みは乾いていた。それでも彼女は、部屋の前までパーカーを脱がなかった。

翌朝、きれいに畳まれたそれが私の枕元に置かれていた。洗ったらしく、家のものとは違う柔軟剤の匂いがした。上には小さな紙がある。

――ありがとう。次は、あなたの選んだ私服も見せて。

私は旅行中ずっと、上は学校指定のジャージ、下は似たような黒いパンツで過ごしていた。人に見られる服を選ぶのが苦手だったからだ。

帰宅してからも、灰色のパーカーを洗えなかった。

袖口に顔を近づけると、寺の石段と、人混みで鞄をつかんだ指先と、制服ではない志麻の横顔が、まだ少しだけ残っていた。