裏切り者は左利き
ボードゲームカフェの新作体験会で、進行役がカードを配った。
「今回の裏切り者は左利きです」
参加者六人の視線が、同時に一人の女性へ集まった。彼女だけが左手でカードを持っていた。
「待って。私は普段から左利きです」
眼鏡の男性が答える。
「だから条件に一致する」
「生まれつきなのに?」
「長年かけて役作りした可能性」
「ゲーム発売より前から?」
進行役は説明を続けた。
「裏切り者は、夜ごと一人の資源を奪えます」
左利きの女性はため息をつく。
「もう私を見るのをやめて」
隣の学生が言う。
「先に被害者を装う動きかも」
「まだ夜にもなってない」
「時間感覚まで操作している」
「万能すぎるでしょう」
第一夜、誰かの金貨カードが一枚消えた。
所有者が叫ぶ。
「左側の山から取られた!」
眼鏡の男性が机を叩く。
「左利きが左から」
「右利きでも左の山へ手は届く」
「自然に届くのは左手だ」
「私の座席からは右手の方が近い!」
女性は無実を証明しようと、以後すべて右手で操作した。
すると別の参加者が疑う。
「急に右手を使い始めた」
「疑われたから」
「利き手を隠す裏切り者の典型」
「さっきは左手を使うから疑ったでしょう」
「どちらを使っても説明できるのが怪しい」
「推理ではなく包囲です」
投票前、進行役がヒントを出した。
「裏切り者は剣を持っています」
女性の鞄から、細長い物がのぞいている。
「剣だ!」
「折り畳み傘です」
「鞘に見せかけた」
「雨予報を伏線にしないで」
満票で女性が追放された。彼女の役職カードは〈騎士〉。
「違うじゃないですか!」
進行役は首をかしげた。
「最初に申し上げた“左利き”は、裏切り者カードのイラストの話です。ほら、絵の人物が左手で短剣を持っています」
全員がカードをのぞき込んだ。
本物の裏切り者は、右利きの眼鏡の男性だった。
女性は右手で彼を指した。
「次から説明は主語を入れてください」
進行役は次回版の説明書へ赤字を入れた。
最初に追放されたのは、文法だった。