親友の保証人
擦り切れた野球ボールのキーホルダーが、銀行の机に置かれた。
「俺たち、幼なじみだろ?」
直哉は、前の人生と同じように笑った。
会社員の藤堂圭介は、その言葉に負けて連帯保証契約へ実印を押した。直哉の店は一度も開店しなかった。融資金は海外へ消え、債権者は圭介の家と預金を差し押さえた。直哉は「勝手に印を使われた」と逃げ、保証人だけがすべてを背負った。
妻に離婚届を渡された夜、圭介が目を閉じると、銀行の蛍光灯が再び眩しく光っていた。
目の前には契約書。朱肉。少年野球時代、二人で買ったキーホルダー。
直哉は懐かしそうにそれを指で弾く。
「店が軌道に乗ったら、最初の客はお前だ」
それも同じ台詞だった。
圭介は実印をケースから出し、朱肉の横へ置いた。直哉の肩から力が抜ける。
「ただし、押さない」
「は?」
「保証人にはならない。事業計画も資金用途も、自分で説明して融資を受けろ」
直哉は急に声を荒らげた。
「もう審査は通ってるんだぞ! お前の保証さえあれば今日、三千万が振り込まれる!」
融資担当者が顔を上げる。
「本審査は、保証人面談後のはずですが」
直哉の口が閉じた。
圭介は契約書をめくる。最終頁には、まだ押していないはずの実印が薄く転写されていた。前の人生で差し押さえ資料を何百回も見たから、その歪みまで覚えている。
「私の印影を、先に複製しましたね」
担当者が書類を光学台へ載せた。《登録印不一致》《申込者端末から画像貼付》と赤字が走る。
直哉がキーホルダーを掴んで立ち上がる。
「圭介、違う。急いでただけだ。友達なら――」
「友達は、相手の人生を担保にしない」
支店長が内線を取った。自動扉の外で、警備員が二人こちらへ向かってくる。
前の人生では十一時ちょうど、圭介の携帯に《保証契約成立》の通知が届いた。
秒針が頂点を指す。
携帯が震えた。
《不正申込を検知しました。藤堂圭介様に債務は発生しません》
直哉は初めて、「助けて」ではなく「許して」と言った。