観客席のない終演

「魔力ゼロ。舞台に上げる価値もない端役だ」

宮廷魔術師は、雨宮奏の鑑定結果を読み上げ、召喚陣の外へ追いやった。

王立円形劇場では、異世界人の能力披露が国民向けの見世物として行われていた。炎を出した者には拍手、聖剣を呼んだ者には花冠。奏だけは何も示せず、幕の陰で衣装箱を運ばされた。

次の勇者候補が雷を放とうとしたとき、天井の照明が黒く染まった。

小鬼インプが幕や梁から降ってくる。低級魔物とはいえ、観客席は貴族と子どもで満員だった。護衛は王族を囲み、出口へ人が殺到する。

奏は舞台監督をしていた前世を思い出した。事故のとき、役者が勝手に動けば被害が増える。必要なのは派手な反撃ではなく、全員に一つの終わりを共有させることだ。

舞台中央では、インプたちが黒い鏡を組み上げていた。その奥から上位魔族の顔が覗く。襲撃そのものが、魔王軍による公開処刑の演目だった。

奏は袖に残された終演ベルを取った。

「この芝居、打ち切ります」

一度だけ《強制終幕》を発動し、ベルを鳴らす。

音より先に、巨大な黒幕が世界の上から降りた。

インプたちは悲鳴を上げる暇もなく影へ戻り、黒い鏡も、その奥の上位魔族も、演目の終わった大道具のように消える。折れた椅子は元の位置へ、落ちた照明は天井へ戻り、逃げていた観客は誰一人転ばず足を止めた。

王族席の演目記録水晶が、終了時刻を刻もうとして砕けた。存在するはずのない「世界全域・終演」という情報を記録できなかったのだ。

国王アルベルトが立ち上がった。

彼が公演中に席を立つのは、国家の敗北を意味するとされている。それでも王は奏へ向き直り、両手で拍手を始めた。

一拍。二拍。

やがて貴族も兵も、先ほど笑った勇者候補たちも立つ。満場の拍手が、能力披露の誰に向けられたものより大きく劇場を満たした。

宮廷魔術師が端役用の札を隠そうとしたとき、王が告げる。

「舞台を救った者が端役なら、我々は観客ですらない」

奏の前にだけ、王族席へ続く赤い階段が下ろされた。