観覧車は三人乗り
閉園一時間前、柿崎遼介、真田莉緒、室井拓斗は、卒業旅行の最後に観覧車へ乗った。係員は「三名様ですね」と確認し、向かい合わせの座席へ三人を押し込んだ。
地上が遠ざかると、莉緒が封筒を出した。
「銀行、辞退した」
遼介が身を乗り出した。「昨日まで研修の話してたじゃん」
「絵本の公募に通った。賞金で半年だけ描く。それで駄目なら考える」
拓斗が窓の外を見ながら言った。「俺は銀行に行くよ。莉緒が辞退したところじゃないけど」
「映像会社は?」
「最終で落ちた。だから安定を選ぶ」
遼介は笑った。「俺だけ何も決まってないみたいだな」
二人が黙ると、ゴンドラが頂上で小さく揺れた。
「卒業しないことにした」と遼介は言った。「休学して、祖父の介護を手伝う。戻れるかは分からない」
莉緒が封筒を握り直した。「それ、進路って言うの?」
「言わないと、何も選ばなかったことになるだろ」
拓斗は足元の案内板を読んだ。緊急時にはその場で待て、と書かれていた。
「俺たち、ずっと一緒にいる前提で決めてたよな」と拓斗。
「銀行員と絵本作家と介護者で、またここに来る?」と莉緒。
遼介は首を振った。「その呼び方が似合うようになったら、たぶん来ない」
大学二年の夏、三人は「卒業したら自主制作映画を撮る」と決め、遼介が脚本、莉緒が絵、拓斗が資金計画を担当した。企画書は完成しなかった。それでも三人は、決めていないことだけを未来と呼んで四年間持ち歩いた。
地上へ近づくにつれ、遊園地の灯りが一つずつ屋根の陰へ消えた。扉が開くと、記念写真が自動販売機から出てきた。三人とも笑っていなかったのに、フラッシュのせいで楽しそうに見えた。
莉緒が写真を三等分しようとしたが、顔の間に切れ目を入れられなかった。
「誰が持つ?」
拓斗が「遼介でいい」と言い、遼介は「要らない」と答えた。
結局、写真はゴンドラの座席に置かれた。次の客は二人組で、係員は写真に気づかないまま扉を閉めた。
三人乗りだった箱が、二人を乗せて夜空へ上がっていった。