解散翌日の一面広告

新聞社の広告売上審査で、安曇川真生は紙面制作を請け負う印刷会社の進行担当として、一面広告の掲載証明を持参した。新興飲料会社「ノヴァスパーク」が三千万円で買った広告で、新聞社は四半期目標を達成するという。

掲載申込書の日付は六月三十日。広告主代表の署名と会社印もある。

真生は登記事項証明書を机に置いた。ノヴァスパークは六月二十九日に解散していた。翌日に新規広告を発注する取締役会も、営業活動も存在しない。

広告局長は、清算中でも契約はできると答えた。

だが署名者とされた代表取締役は解散と同時に退任し、清算人は別人だった。申込書に使われた会社印も、印鑑廃止届が六月二十九日午後三時に受理されている。

代金の入金元を調べると、新聞社の親会社がノヴァスパークへ貸し付けた三千万円だった。その翌日、広告料として新聞社へ戻っている。広告主が払ったのではなく、グループの資金が一周しただけだった。

広告原稿にも商品価格や発売日がなく、「未来を飲もう」という文言と空の缶の画像だけ。商品製造の記録はなく、商標も失効していた。

広告局長は、紙面が実際に印刷された以上、売上は実在すると主張した。

「広告枠という役務を提供した」

真生は印刷発注書を開いた。一面広告を入れるため通常記事を二ページへ移し、追加印刷費百二十万円は真生の会社へ無償負担させる条件だった。架空売上のため、下請けに実費まで背負わせている。

新聞社との取引を失う恐れはあった。それでも真生は掲載証明へ印を押さなかった。

「紙面は存在します。でも、広告主と商品と代金は、前日に消えています」

真生は親会社から送られた資金指示メールも提示した。「広告料として戻し、売上確認後に清算会社を閉じる」と書かれ、広告局長が了承の返信をしていた。紙面の効果測定欄は空白なのに、売上だけは掲載前から達成済みと報告されていた。

監査役が三千万円の売上決裁を止めた。解散翌日の会社は、一面を埋めても決算の空白を埋められなかった。