追放令嬢の最後の包帯

アディナが公爵家を追放された朝、城門の前には白狼がいた。

巨大な神獣は街道を塞ぎ、元婚約者のレオルは馬車の中から叫んだ。

「最後まで災いを呼ぶ女め! 騎士、あれを討て!」

アディナは荷物一つで門外へ出されたばかりだった。領地の診療所へ私財を使ったことを「家の金を盗んだ」とされ、弁明の機会さえ与えられなかった。もう彼らに従う義理はない。けれど白狼の金眼が自分へ向いたとき、逃げることもできなかった。

白狼は後ろ足を引きずっていた。

「罠にかかったのね」

白い毛に紛れ、細い鋼線が腿へ食い込んでいる。血は乾き、線の周りだけ毛が固まっていた。騎士たちは「攻撃の構えだ」と騒いだが、白狼は座ることさえできずにいるだけだ。

アディナは旅鞄を置き、ゆっくり近づいた。

「私も今、首輪を外されたところなの。少し痛かったけれど、自由になれるわ」

白狼の耳が彼女の声へ向く。誰も聞かなかった言葉を、初めて受け止めてもらえた気がした。

自嘲のつもりだった。白狼は鼻先を彼女の胸へ寄せ、追放状の封蝋を嗅いだ。

アディナは髪飾りの針で鋼線の結び目を緩めた。返しが肉へ刺さらぬよう一本ずつ切る。血を拭う布がなく、最後に残った絹のドレスの裾を裂いた。

元婚約者が馬車から降りてくる。

「それは王家の神獣だ。勝手に触れるな」

「では、王家はなぜ王都の罠を片づけなかったのです?」

初めて言い返せた。

鋼線が外れる。アディナが薬を塗り、絹布を巻くと、白狼は傷ついた足を一度地につけた。それから元婚約者ではなく、アディナの前に頭を垂れた。

銀の契約印が彼女の手の甲へ咲く。

門衛が青ざめた。さらに契約印の光が追放状へ走り、虚偽の告発に押された封蝋だけを黒く焼いた。神獣に選ばれた者を国外へ追うことは、建国法で禁じられている。

元婚約者が追放状を取り落とす。アディナはそれを拾わず、道端へ座った。

白狼は彼女の膝へ頭を載せ、裂いたドレスの裾へ鼻を埋めた。威厳ある神獣のはずなのに、白毛は日向の羽毛のように柔らかく、その重みだけが、もう誰にも追い払わせないと静かに約束していた。