通知を切った決勝戦
二十一時五十分。小比賀弦人は、決勝戦の開始ボタンを押す前に城戸芙実へ送った。
〈これが終わったら、チームを解散する。返事がないなら同意だと思う〉
灰色の送信印。既読はつかない。
二人で作ったゲームチーム《PARALLAX》は、恋人になる前からあった。机の上の白いコントローラーは共用で、右のトリガーだけが擦れている。芙実が緊張すると強く引く癖の跡だ。別れ話をした夜も、彼女はそれを握ったまま、「試合が終わるまで私情を持ち込まないで」と言った。
弦人は、その言葉を冷たさだと思った。
二十一時五十二分、試合開始。
相手の狙撃を避け、残り体力三で拠点へ滑り込む。芙実なら「右、二秒」と短く指示する場面だった。ヘッドセットには自分の息しか聞こえない。
二十一時五十六分。携帯は暗いまま。
観戦者数だけが増えていく。芙実のアカウント名は一覧にない。来てもいないのだ、と弦人は思った。
二十一時五十八分、逆転勝利。画面に金色の文字が弾けた。
歓声の代わりに、チーム管理画面を開く。《解散する》の赤いボタン。その横に、二人で初優勝した日付が小さく表示されている。
弦人がカーソルを重ねたとき、配信画面のコメント欄が一気に流れた。大会配信には九十秒の遅延がある。
〈FUMI_C:見てる。通知は全部切ってるからメッセージはまだ読めない〉
〈FUMI_C:勝ったら、ちゃんと話したい〉
〈FUMI_C:私はチームを抜けたいんじゃない。恋人をやめたくない〉
投稿時刻は、試合開始直後だった。
弦人の携帯も震えた。芙実の配信端末から自動転送されたメッセージが、八分遅れて届く。
〈決勝中はスマホを見ないって、最初に決めたのは弦人でしょ。終わったら、駅のゲームセンターで待ってる〉
赤いボタンの上で、カーソルが点滅している。
行けば間に合う。管理画面を閉じれば、チームもまだ残る。
だが弦人は、九分間の沈黙に傷ついた自分を、九十秒の遅延だけでは戻せなかった。
確認窓の《本当に解散しますか》に、二人の戦績が並ぶ。
弦人は擦れた右トリガーを一度引き、《はい》を押した。