銃刑隊の照準は誰を選ぶ
「魔力ゼロの異邦人に、十二発は贅沢だな」
将軍の合図で、白石茜の前に十二人の魔導銃兵が並んだ。
茜が転移したのは、帝国軍の補給倉庫だった。帳簿の数字が合わないと口にした翌日、軍需品を盗んだ犯人にされた。裁判は三分。証人は将軍の部下だけ。夜明けの銃殺場には、処刑を見るため士官たちが酒杯を持って集まっていた。
両手は柱へ縛られている。
正面には十二丁の長銃。その後ろには、逃亡防止だという攻城砲まで据えられていた。
銃口を見た瞬間、茜の意識に能力の名が刻まれた。
《照準主権》
自分を含む一帯で、すべての武器が「真に狙うべき対象」を一度だけ選び直す。
茜は経理担当だった。
数字は撃ってこない。けれど、不正を隠す人間はいつも、責任だけを弱い者へ向ける。
ならば照準を正せばいい。
「構え!」
十二の引き金に指がかかる。
茜は能力を使った。
銃兵たちの腕が勝手に動いた。
十二の銃口が一斉に横を向き、処刑を命じた将軍へ揃う。攻城砲の砲身も地響きを立てて旋回し、観覧席を見下ろした。城壁の弩、士官の腰剣、空を巡回する飛竜騎兵の槍まで、見えない糸で引かれたように同じ一点を指す。
将軍が青ざめて後退した。
すると彼の胸元から黒い魔石が転がり落ちる。敵国でしか採れない、禁制の誘導石だった。
倉庫の横流しだけではない。帝国の兵器すべてに細工し、戦争そのものを売っていた証拠だ。
軍の鑑定技師が誘導石へ測定筒を向ける。
表示された取引量は、国家予算の三倍。筒の数字板が桁を収めきれず、火花を散らして破裂した。
「違う、これは罠だ! 撃て!」
将軍が叫んでも、誰も引き金を引けなかった。
武器が彼だけを選んでいる。
茜の縄を、銃兵の一人が震える手で切った。
彼女は柱から離れ、土埃の中でまっすぐ立つ。
皇帝代理として臨席していた老元帥が、ゆっくり酒杯を置いた。軍歴五十年、一度も将軍へ頭を下げなかった男が席を立ち、茜に敬礼する。
それを見た十二人の銃兵も銃を下ろし、彼女へ向き直った。
処刑場で唯一、狙われていない者が誰なのか、もう誰にも説明は要らなかった。