銅片一枚で巨神を止める

「金属片を一度鳴らすだけ? 鍛冶場なら槌が千倍うるさい」

機巧院の試験で、カディオは無能と判定された。

【魔法:《小鳴り》――触れた親指大までの金属一つを、一度だけ澄んだ音で鳴らす】

音量は鈴以下で、振動も物を壊せない。カディオは古代巨神の展示庫へ掃除係として送られた。

彼は巨神の関節へ油を差し、耳の銅片だけは布で磨いた。触れるたび違う高さで鳴るため、古い整備書の音階まで暗記していた。

半年後、展示されていた巨神が敵の呪波で動き出した。

石と鉄でできた百尺の兵器は、城壁を味方と認識せず拳を振り上げる。機甲兵の鎖は引きちぎられ、砲弾は胸板に浅い跡しか残さない。鍛王ベズガンは停止命令の鐘を鳴らしたが、巨神は聞かずに王宮へ歩いた。

カディオは毎朝、巨神の耳の埃を払っていた。

耳孔の奥には、親指ほどの銅片が吊られている。古代人は巨神へ命令を声で伝えたのではない。決まった高さの音を銅片へ響かせ、その振動を命令として読ませていた。停止鐘は大きすぎ、年月で音が低く濁っている。

「銅片まで登れば、踏み潰されるぞ」

ベズガンが叫ぶ。

カディオは巨神の肩から垂れた飾り鎖へ飛びついた。拳が城壁を砕く振動の中、耳までよじ登る。銅片へ指が届いたとき、巨神は王宮の塔を掴んでいた。

《小鳴り》

ちん、と小さな音がした。

戦場では誰にも聞こえないほど弱かった。

だが巨神の耳にとって、それは失われた主の声だった。塔を握っていた指が止まり、巨体が片膝をつく。胸の紋章が赤から青へ変わり、呪波を放っていた敵の塔へ顔を向けた。

巨神の一撃で塔は崩れ、呪波も消えた。

カディオは耳孔から滑り落ち、ベズガンの機巧竜に受け止められた。

試験官が「古い仕組みを知っていただけ」と言う。

鍛王は停止鐘を槌で割り、その中から濁った舌を取り出した。

「大きな音で従わせることしか知らぬ者より、届く音を知る者が要る」

ベズガンは巨神庫の主鍵をカディオへ渡した。

「今日から、眠った機械を起こす声も、止める声も、おまえが選べ」