鐘楼に残る舌
六体目の攻城巨人が、鐘楼より高く立ち上がった。
鐘守グラエンは青銅の舌へ額を当てた。この鐘は、差し出した一語を世界から叩き出す。鐘に向かって言葉を一つ告げ、鳴らせば、その言葉が指すものを一つ滅ぼせる。
代わりに術者は、その言葉を二度と話せず、聞いても理解できず、心の中で思うことすらできない。
一体目には「腕」と告げた。鐘が鳴ると巨人の両腕が崩れた。それ以来、グラエンには自分の肩から先が何なのか、言葉で捉えられない。
二体目には「脚」。三体目には「目」。四体目には「火」。五体目には「骨」。
城壁の下で何が燃え、何が折れているのか、彼にはもう半分しか理解できなかった。
六体目の胸には鏡が埋め込まれていた。腕を砕いても脚を折っても、鏡が別の肉を生やしてしまう。鏡面には、鐘楼に立つグラエン自身の顔と、短い命令が浮かんでいた。
《おまえが、おまえを指す語を寄こせ》
補佐のヒサルが鏡を射た。矢は映った自分の胸へ戻り、彼の鎧を裂いた。
巨体が拳を上げる。次の一撃で鐘楼ごと内門が潰れる。
鏡を壊すには、映る者と映される者を結ぶ言葉を消すしかない。
グラエンは自分の胸を指した。
「私」
ヒサルが息を呑む。
鐘を鳴らした。
響きが城塞を覆い、巨人の胸の紋へ突き刺さる。命令を与えていた術者の「私」が消え、操られていた巨体は主を失ったように膝から崩れた。石と肉の山が外堀へ落ちる。
守兵たちが歓声を上げ、ヒサルはグラエンの肩を抱いた。
「あなたが救ったんです」
グラエンは首を傾げた。「あなた」が誰を指すのか分からない。胸を叩いても、そこに一人の人間がいるという感覚がなかった。
名前を尋ねられ、口を開いた。だが自分を示せない者に名は結びつかない。
鐘の代価は最後に、失った語をしまう器を求める。
彼の舌が硬くなり、青銅へ変わった。喉の奥で小さく揺れ、声の代わりに澄んだ音を立てる。
その後、鐘楼には新しい鐘守が置かれなかった。
風が吹くたび、誰も綱を引いていないのに鐘が鳴った。その音が何を告げているのか、城塞の誰にも分からなかった。鳴らしている当人にも、もう分からなかった。