陶芸窯のそば

陶芸家の柚葉が窯を焚く日は、猫の「煤」が工房へ来る。

黒猫だから煤と呼んでいるが、飼っているわけではない。窯から十分離れた安全な場所で丸くなり、炎の低い音を聞いている。

弟子の佑弦は、猫が作品へ触れないか気にした。

「追い出さなくていいんですか」

「窯の日しか来ないから」

煤は乾燥中の器には近づかず、決まった古い座布団に座る。火が弱まる夜明けまで、ときどき向きを変える。

その日、佑弦が作った茶碗は形が少し歪んでいた。窯へ入れるか迷い、「失敗です」と棚の端へ置いた。

柚葉は何も言わず、その茶碗も窯詰めした。

夜、二人は交代で火を見た。工房には薪と土、それから煤の毛が日に温められた匂いがする。

明け方、温度が下がり始めると、煤が立ち上がった。歪んだ茶碗のあった棚を一度嗅ぎ、外へ消えた。

窯を開けるのは二日後だった。佑弦の茶碗には、釉薬が思いがけない青緑に流れていた。歪みのせいで色が片側へ溜まり、そこだけ深い水のように見える。

「煤に見せたいですね」

「次の窯の日に来るよ」

茶碗は売らず、工房で使うことにした。湯を注ぐと、歪んだ縁から湯気が一方向へ流れた。

次に窯を焚いた夜、煤は本当に来た。柚葉がその茶碗で茶を飲む横に座り、目を細める。器の青、猫の黒、窯の赤。三つの色の間に、焼けた土と温かな毛の匂いが静かに重なった。

佑弦は同じ形の茶碗をもう一つ作ろうとしたが、狙うと歪みは不自然になった。柚葉は「最初の一つで十分」と言う。煤は窯の日以外にも、たまに工房の外を通るようになった。中へは入らず、戸口で土の匂いを嗅いで去る。秋、青緑の茶碗の底に小さな貫入が生まれた。湯を注ぐと細い模様が濃くなる。佑弦はそれを失敗と呼ばず、煤の座布団の向かいで茶を飲んだ。窯の余熱が消えても、器と猫のいる場所だけは夜まで温かかった。

煤が去った座布団には、黒い毛が一本だけ見えた。佑弦は拾わず、次の火を待つ。窯場の床が冷える間も、その細い毛だけが赤い光をかすかに返した。