雑草採りが災厄の根を摘む
採取師モアナの籠には、銅貨にもならない草ばかり入っていた。
薬草は錬金術師の功績、希少鉱石は鉱夫の功績。採取師は見つけた素材を渡すだけで、討伐隊からは「地面を見て歩く荷物」と呼ばれる。勇者隊を外された理由も、戦闘中に足元ばかり見ていたからだった。
技能欄は簡素だ。
【職業技能《群生採取》:同じ根から生じた採取対象は、広がりにかかわらず一株として根ごと摘み取る。】
その年、王国の畑という畑から黒い蔓が生えた。
刈っても焼いても翌朝には倍に増え、麦も果樹も家畜まで締め上げる。宮廷は《飢餓樹海》と名づけ、災害指定した。十万人分の備蓄は三日で尽きる。
討伐隊は森の端を切り続けたが、一本切るたび別の村で十本伸びた。
モアナは、黒い葉を一枚だけ籠へ入れていた。
どの地方の葉も、切り口の匂いが同じだった。朝露のつき方も、脈の分かれ方も同じ。王国全土を覆っていても、これは森ではない。
一株だ。
「根が一つなら、広さは関係ない」
彼女は王都広場の石を割って伸びた細い蔓をつかんだ。勇者が「そんな端を抜いて何になる」と笑う。
モアナは腰を落とし、草を抜くときと同じ角度で引いた。
地面の下から、巨大な何かが悲鳴を上げた。
王都、村、山、国境。あらゆる場所の黒蔓が同時に土から抜け、空へ引き寄せられる。城を覆う蔓も、川底の蔓も、一本の根へ折り畳まれた。
最後にモアナの手の中へ残ったのは、親指ほどの黒い球根だった。
王国を呑んだ災厄が、採取籠の隅で震えている。
彼女は蓋を閉め、勇者へ渡さず自分の腰へ結んだ。
「希少素材なので、採取者の取り分です」
畑では、押し潰されていた麦が一斉に起き上がった。
宮廷錬金術師たちは球根を買い取ろうと金貨袋を積んだが、モアナは首を横へ振った。王国中の土を蝕んだものを、また誰かが兵器へ育てるかもしれない。彼女は球根へ採取封印札を貼り、自分を追放した勇者の署名で危険物保管料を請求した。金貨より先に、百の村から翌年の種籾が届いた。
【職業《採取師》が上位職《災源収穫者》へ書き換わりました。】