雨の日の蜂箱
「一畳ぶんだけ雨を避ける? 農地を守るには狭すぎる」
豊穣神殿の選定で、ヨルナは無能の札を受け取った。
【技能:《小晴れ》――指定した地面一畳の真上だけ、日没まで雨が落ちない】
風も雲も動かせず、晴天にもできない。一日に一か所だけ。彼女は山裾の湿地へ移り、雨蛙の魔物たちと薬草を育てた。蛙は雨が降ると歌い、ヨルナは軒下で泥のついた足を一匹ずつ洗った。
三月、雨が止まなくなった。
川は畑へあふれ、麦の花粉は流れた。最後の望みは、王家が守る太陽蜂の巣箱だった。太陽蜂は一度飛べば十里の花を受粉させるが、翅が濡れると巣から出ない。巣箱の屋根はある。それでも入口の前に雨の幕ができ、二十日間、一匹も飛ばなかった。
雨司祭オーニュは大規模な晴天祈願を行った。だが雨蛙の王が遠くで鳴くたび、雲はさらに厚くなる。
「巣を燃やして蜜薬だけ回収する」
司祭たちが決めた。蜂が飢えて全滅する前に、薬だけでも残すためだ。
ヨルナは巣箱の前へ座った。
「畑全部を晴らす必要はありません。蜂が最初の一歩を踏み出す場所だけでいい」
《小晴れ》。
巣箱と、その前に置いた蜜皿を含む一畳から、雨粒だけが消えた。雲は暗いまま。それでも乾いた空気を感じた一匹が入口へ出た。羽を震わせ、二匹目、十匹目が続く。蜂たちは雨の中へ飛び込むと、体の周囲へ小さな光膜を作った。飛び立つ瞬間さえ濡れなければ、自分で雨を弾ける種だった。
金色の群れが雲の下へ広がる。濡れた麦、薬草、果樹の花へ次々に降り、流された花粉を運び直した。
日没、技能が切れるころ、蜂は一畳の乾いた入口へ戻った。巣の周囲では、雨蛙たちが声を抑えて並び、帰還を見守っていた。
ひと月後、村の麦だけでなく、谷じゅうの果樹が実をつけた。
選定官は「蜂の性質を知っていただけ」と言った。
オーニュは雨冠を外し、ヨルナの頭上へ掲げた。
「雨を止める力が偉いのではない」
雨司祭は乾いた一畳を指した。
「誰が、どれだけの晴れ間を必要としているか知る者が、空を治める。次の祈願からは、そなたが私の隣に立て」