雨樋の空竜

雨が七日やまなかった。

町役場は、屋根の上に居座る空竜の幼子が雨雲を呼んでいると発表した。弓兵が集められ、広場では討伐の相談まで始まった。

屋根修理見習いのチセは、梯子を肩に役場へ向かった。

女には高所仕事は無理だと、親方はいつも地上の雑用しか回さない。それでも彼女は、誰もいない早朝に屋根へ上り、瓦のずれも樋の詰まりも一人で直してきた。

「落ちた瓦を直すだけです」

そう言って屋根へ上がり、弓の届かない棟まで這う。空色の幼竜は雨樋のそばで丸まり、近づくチセへ細い牙を見せた。背中の雲毛は濡れて灰色になり、尾は樋の穴へ突っ込まれている。

「雨を降らせてるんじゃなくて、抜けなくなってるのね」

雨樋には、役場が雨漏りを隠すため厚く塗らせた松脂が垂れ、幼竜の尾毛をべったり固めていた。逃げようともがくたび雲毛がちぎれ、痛みで雨が強くなる。

下から役人が怒鳴る。

「早く追い払え!」

チセは返事の代わりに、工具袋から油と石鹸を出した。松脂へ油をなじませ、ぬるい雨水で少しずつ洗う。幼竜は何度も爪を立てかけたが、チセが毛を引っ張らないと分かると、じっと尾を預けた。

固まりがほどけるにつれ、空色が戻ってくる。ちぎれた部分には布を細く裂いて巻き、風で引かれないよう結び目を毛の外へ出した。幼竜はその作業を、雨粒を瞬かせながら見ていた。

最後の毛束が樋から抜けた途端、幼竜は勢い余ってチセの胸へ飛び込んだ。二人で瓦の上を転がり、幼竜は彼女の腹の上に乗ったまま、ぱたぱた翼を振る。

その一振りで、雲が裂けた。

七日ぶりの日差しが屋根を照らす。広場から歓声が上がり、討伐を命じた役人まで帽子を振っていた。

チセが起きようとすると、幼竜は肩へ移り、濡れた頬へ鼻を押しつけた。契約印のような小さな雲が、首筋に浮かぶ。

空竜は羽根ほど軽いと思っていた。けれど肩にかかる体は子猫二匹分ほどあり、雨上がりの雲毛は、干した布のような優しい熱をチセの首へ残した。