雪かきの幅

 能代章吾が始発のバスで町へ戻ると、父の家は雪に半分埋まっていた。源作は門から納屋まで、スコップ一枚ぶんの細い道を掘っている。

「腰、やるぞ」

「都会の靴で来るやつに言われたくない」

「長靴、まだある?」

「物置」

 章吾の長靴は高校時代のまま、踵が少しきつかった。製菓学校へ行くと言った夜、父はその長靴を玄関の外へ放り出した。「畑を捨てて、菓子か」。章吾は翌朝、本当に家を出た。

 二人は並んで雪を掻いた。源作は四角く切り、章吾は横からすくう。やり方が違うせいでスコップが何度もぶつかった。

「そっちは納屋だろ。玄関を先にしろよ」

「除雪機を出さなきゃ全部手だ」

「俺がいる」

「今日だけだ」

 白い息の間に、言葉が刺さった。

 章吾は店の閉店をまだ伝えていなかった。共同経営者と揉め、借金だけが残った。父に知られれば「だから言った」と言われる。それを聞くくらいなら、東京の狭い部屋で一人で片づけるつもりだった。

 納屋の戸を開けると、除雪機の上に段ボール箱があった。中には章吾の店の焼き菓子の空き缶が三つ、きれいに重ねてある。送り主欄は全部、母の字だった。

「食ったの」

「湿気る前にな」

「感想は」

「高い」

「味」

「高い味がした」

 章吾は笑い、すぐに鼻をすすった。寒さのせいにできた。

 除雪機は古く、始動ロープが戻らない。二人でカバーを外し、凍った部分を温めた。源作が灯油缶を押さえ、章吾がプラグを拭く。エンジンが唸ると、会話より素直に前へ進んだ。

 昼までに門から納屋、納屋から玄関まで道ができた。章吾が長靴を脱ぎ、バス停へ向かおうとすると、源作は除雪機の向きを変えた。

 玄関脇から、使われていない勝手口へ。そこは章吾の昔の部屋に近い。

「そっちは誰も通らないだろ」

「雪はまた降る」

 源作は答えず、道幅をスーツケース一個ぶん、広く掘った。章吾はその道の入口に、荷物をいったん置いた。