雪虎のたてがみに縫い針

雪虎アルジャンは、北国から和平の証として贈られた王宮獣だった。

だが触れようとした者をことごとく威嚇し、豪華な外套を着せた儀式では三人の侍従を転ばせた。誰にも懐かない獣として鎖につながれ、和平そのものまで疑われ始めていた。

王宮縫い子のベリルは、破かれた外套を直すため檻の前へ連れてこられた。

「失敗したら、お前の給金から弁償だ」

主任はそう言ったが、ベリルは裂け目より雪虎の首元を見ていた。白い鬣の一か所だけが固く盛り上がり、アルジャンは首を動かすたび歯を鳴らす。

外套を縫った者なら分かる。金糸用の長針が一本足りないと、昨日から騒ぎになっていた。

「外套を嫌ったのではありません。針が刺さっています」

誰も信じない。そこでベリルは自分の針山を床へ置き、空の両手を見せて檻へ入った。

アルジャンの青い目が追う。彼女は正面から近づかず、少し離れた所へ座り、自分の髪の絡みを櫛でほどいてみせた。

「引っ張ると痛いですよね。切らずにほどきます」

しばらくすると雪虎は一歩近づき、問題の首を彼女へ向けた。ベリルは鬣を少しずつ分ける。金糸に絡んだ長針が皮膚へ斜めに刺さり、周囲には乾いた血がこびりついていた。

指貫で針先を押し戻し、反対側からそっと抜く。アルジャンの喉が鳴ったが、爪は出なかった。温水で血を拭い、柔らかな布を巻く。

主任が成果を横取りしようと「私の指示です」と前へ出た瞬間、雪虎は一声だけ唸った。そしてベリルの足元に横たわり、巨大な腹を上へ向ける。

淡青の契約紋が腹毛から浮かび、彼女の指貫へ移った。国王はその場でベリルを王獣衣装師に任じ、飾りより獣の心地を優先せよと命じた。

北国の使節は、雪虎へ衣を着せないのが本来の礼法だと証言した。豪華さを競った王宮側が、勝手に習慣を変えていたのだ。ベリルは和平衣装を作り直す代わりに、アルジャンの首へ軽い青布を一筋だけ結ぶ。虎はそれなら嫌がらず、使節へ静かに頭を下げた。

ベリルが腹を撫でると、雪原色の毛はふわりと指を包んだ。膝へ乗せられた前足は湯たんぽのように温かく、逃げられないほど嬉しい重さだった。