零号炉からの内線

午前三時二十六分、常盤木烈の制御卓で、廃止されたはずの内線零番が鳴った。

『圧が一段高い。数字を信じるな』

声は鶴巻主任だった。三年前、点検中の事故で死んだ男だ。通話の背後では蒸気弁が三回打ち、五十八秒後、零号炉の格納容器が白く弾けた。

烈が目を開けると、線量計が床へ落ちる直前へ戻っていた。

反復が終わる条件は、炉圧を八メガパスカル未満に保ったまま自動停止を完了し、表示を〈冷却安定〉へ変えることだった。

主蒸気を放出した回では、計器は七・九を示したが、排気塔で水素が燃えた。

補助冷却水を最大にすると、腐食した配管が裂け、制御室まで熱水が来た。

計器を無視して手動弁を閉じたときは、圧力は下がったが、停止棒が途中で固着した。

『圧が一段高い。数字を信じるな』

鶴巻の同じ言葉が、今度は命令ではなく告発に聞こえた。

烈は保守記録を検索した。圧力センサーの補正値は、建設当時から一メガパスカル低く書き換えられている。零号炉を設計したのは烈の父だった。欠陥を公表すれば、町の雇用を支える全炉が停止する。学校も商店街も発電所の税収で建った。だから会社は三十年、数字だけを安全にしてきた。

正規の手順では炉を守れない。守ろうとするたび、反応は続く。

次の内線が鳴る前に、烈は海水注入系の封印を割った。塩分が入れば炉は二度と使えない。関連設備も廃炉になり、町は会社と一緒に沈む。画面には父の電子署名で警告が出た。

〈恒久損傷を承認しますか〉

「承認する」

海水が炉心へ流れ込む。圧力の線は急に折れ、停止棒が熱変形した燃料の間へ沈んだ。〈冷却安定〉の緑文字が灯る。

三時二十七分。時間は戻らない。

内線零番から、鶴巻の小さな笑いがした。

『やっと数字を壊したな』

通話は切れた。烈は父の署名が入った設計書を事故調査委員会へ送信し、制御卓の鍵を抜いた。

窓の向こうで、町を照らしてきた原子炉の灯が一基ずつ消える。夜は暗くなったが、格納容器は割れなかった。烈はその暗さを、初めて正しい計器のように見つめた。