青いろくろの午後
陶芸教室で、四番ろくろだけが二重予約になっていた。
土曜十三時、私――汐見叶芽の名と、「郡司理世」の名が同じ欄にある。受付の稲伏先生は端末の不具合だと言い、先に来ていた郡司さんは「私は別の日でも」と立ち上がった。
私は月末に引っ越す親友へ、青いマグカップを焼くつもりだった。郡司さんも同じ青釉を選んでいる。予約を触れたのは、稲伏先生、郡司さん、補助講師の御厨さんの三人だった。
四番ろくろの足元には、粘土が一人分ではなくきっかり二倍置かれていた。郡司さんの予約票には「取っ手は右向き」とだけ書かれている。そして棚の見本マグには、親友がよく描く、丸い雲の印があった。
「郡司さん。理世って、引っ越す友達のお母さんですよね」
郡司さんは驚いてから、申し訳なさそうに笑った。
親友の名は帆澄。結婚して姓が変わる前、教室には母親の郡司姓で通っていたという。私たちは一か月前、引っ越し祝いについて口論した。「形に残るものはいらない」と言われ、私は腹を立て、制作予約も取り消した。
けれど帆澄は、私が最初の会社を辞めた日にくれたマグを、今も毎朝使っている。あの取っ手が右向きなのは、左利きの私と向かい合って飲むと、雲の絵がこちらを向くようにしたからだった。
帆澄は謝りたいのに、自分から連絡できない。郡司さんに頼み、昔の会員情報で同じ枠を予約してもらった。私が来なければ、母親と二人でマグを作るつもりだったらしい。
「勝手なことをしてごめんなさい。あの子、いらないんじゃなくて、別れる感じがするのが嫌だったみたい」
稲伏先生は事情を知り、二人分の粘土を用意した。御厨さんは、見本棚に帆澄が昔作ったマグを置いてくれていた。
私はスマートフォンを取り出し、帆澄に短いメッセージを送った。
――雲、二つでいい?
すぐに既読がつく。
――三つ。お母さんの分も。
郡司さんと一つのろくろを挟み、粘土を半分に分けた。最初の水を指につけると、彼女が言った。
「少しくらい歪んだほうが、毎朝見分けやすいですよ」
私は回り始めた土に触れた。
「じゃあ、同じ歪みにしましょう」