青い箱の招待状
瑚都は、発送前だった招待状を青い箱に戻していた。
百二十通。宛名は筆耕を頼み、切手まで貼ってある。婚約を解消したと伝えるより先に、この箱を見えなくしたかった。
従姉の佐弥は結婚式を「高額な一日」と呼ぶ人だ。瑚都が式場を決めたときも、祝福より見積書の確認をした。
「だから言ったでしょ、とは言わないで」
「言う価値もない。今やるのは個人情報の処理」
佐弥は家庭用シュレッダーと、切手をはがすためのぬるま湯を持ってきた。
瑚都は結婚そのものを諦めたくなかった。佐弥は制度に期待していない。その違いは、破談になっても埋まらない。
二人は封筒からカードを抜き、宛名部分を切り離した。金の箔押しが刃に引っかかる。シュレッダーは十通ごとに熱を持ち、止まった。
停止中、佐弥は励ましも批判もせず、切手の角へ水を含ませた綿棒を当てた。
「再利用できる?」
「未使用なら。のりは別に必要」
「次に使うこと、あるかな」
「郵便は結婚式専用じゃない」
瑚都は少し笑った。救われたからではなく、当たり前すぎたからだ。
式場の地図、二人の写真、連名の挨拶文。紙は役割ごとに分けた。写真は瑚都が細く裂き、佐弥が中身の見えない袋へ入れた。リボンは捨てず、近所の保育園へ工作用として渡せる長さに切った。
「何でも再利用するね」
「物に罪はない」
「私は、物にも腹が立つ」
「それは自由」
佐弥は否定せず、ただ瑚都が裂き終わるまで袋の口を持っていた。
夜、青い箱は空になった。瑚都は箱そのものも捨てたいと言い、佐弥は丈夫だから使えると言った。最後まで意見は合わなかった。
二人で箱を平らにつぶす。厚紙は抵抗し、中央がなかなか折れない。
瑚都が上から押し、佐弥が折り目をつけた。箱はようやく薄くなった。
資源ごみ置き場まで、二人で束を運んだ。戻る途中、佐弥は回収した切手を小袋に入れて瑚都へ渡した。
瑚都は受け取り、財布ではなく文房具の引き出しへしまった。
次に何へ貼るかは、まだ決めなかった。