青い箱の警告音
新型の輸液監視装置は、異常を検知してもすぐには大音量を鳴らさない。まず青い光で担当看護師に知らせ、八秒後に音を出す。
その仕様を決めた天羽朔人は、病棟に四十日通い、夜勤の動きを記録した。警告音が多すぎると、本当に危険な音まで聞き流される。それを防ぐための八秒だった。
納入審査の日、平賀泰紀部長は大学病院の会議室で胸を張った。
「医療現場を知る私が、警報疲れに着目しました」
朔人の名は資料の「操作確認担当」へ移されていた。平賀が以前、「黙って光る機械など事故のもとだ」と仕様変更を命じたメールも残っている。
救急部長の槙野玲司は、机上の青い箱を指した。
「八秒である根拠は?」
「人間工学的に最適な時間です」
「七秒でも九秒でもなく?」
「総合的に判断しました」
槙野は模擬病室の映像を再生した。青い光に気づいた看護師が平均六・二秒で装置へ到達し、七秒以内なら周囲の患者を起こさず対応できる。八秒目に音を鳴らせば、見落としも防げる。
「この検証を設計したのは?」
「私のチームです」
槙野は朔人を見た。朔人は、夜勤者の視野角、カーテンの透過率、色覚特性まで説明した。さらに、停電時だけは遅延を解除する条件を答えた。
平賀が苛立った声を出した。
「細部は天羽に任せましたが、方針は私です」
槙野は首を横に振った。
「私は天羽さんと二年、患者安全委員会で議論してきました。平賀さん、あなたは今日、装置の電源位置さえ間違え、青色を選んだ理由すら答えられなかった」
病院長が納入契約書を開く。初年度だけで六百台、関連病院を含めれば三千台の案件だった。
「採用条件は天羽さんが改良責任者であることです。彼を外すなら、認証試験からやり直し、契約も白紙にします」
自社社長は平賀から入館証を受け取り、朔人へ改良責任者の腕章を渡した。
「天羽君、署名を」
朔人が契約書へ名を記すと、青い箱は静かに光った。八秒後に鳴った警告音は、会議室で立場を失った平賀だけに向けられたようだった。