青梅の数は数えない
真砂可奈女は、マンションの共同台所で青梅を洗っていた。
毎年六月、管理人の浜路が住人を集め、梅シロップを仕込む。可奈女は去年まで参加を断っていた。休日まで人と話すのが面倒だったからだ。
今年は、玄関前に置かれた梅の袋を返しに行ったところ、そのままエプロンを渡された。
「百個あるから、傷のないものを選んで」
浜路が言う。
可奈女は大きさをそろえ、斑点のあるものを別へ分けた。
「それも使えるよ」
「でも、見た目が」
「瓶の中で見えなくなる」
隣の部屋の大学生は、梅のへたを竹串で飛ばして遊び、浜路に叱られた。
三人で洗い、水気を拭き、梅と氷砂糖を交互に瓶へ入れた。
可奈女は一段ごとに個数を数えた。十、十、また十。
「数えなくても入ればいいのに」
大学生が言う。
「均等な方が溶けやすそう」
「梅は引っ越さないから大丈夫」
理屈になっていないのに、可奈女は笑ってしまった。
傷のある梅は、浜路が包丁で悪い部分を切り、ジャム用の鍋へ入れた。
砂糖と一緒に煮ると、共同台所へ青く酸っぱい香りが広がった。
「捨てないんですね」
「傷がある方が、早く煮えることもある」
浜路は木べらを渡した。
可奈女が鍋を混ぜると、固かった実が少しずつ崩れ、艶のある緑へ変わった。
仕込んだ瓶には、各自の部屋番号を書いた。
可奈女の瓶だけ梅が整然と並び、大学生の瓶は氷砂糖が一方へ偏っている。
「一か月後、味比べね」
浜路が言った。
七月、三人で瓶を開けた。
見た目の違いに反して、どれも同じように甘酸っぱかった。炭酸水で割ると、細かな泡が梅の香りを持ち上げる。
可奈女は自分のグラスへ、ジャムを小匙一杯落とした。底に果肉が沈み、飲むたび少しずつ味が変わった。
共同台所の窓は開いていた。
雨上がりの湿った風と、梅の明るい香りが混じる。大学生が「来年は梅干しも」と言い、浜路が「手間が増える」と答える。
可奈女は、来年の予定をその場で決めなかった。
ただ空になったグラスへ残った果肉を匙ですくい、数えずに口へ運んだ。
夏の入口の味は、均等でない方が長く残った。