靴紐の結び目
体育祭の選抜リレー直前、親友の靴紐が切れた。
アンカーは、私たちが同じように好きな人だった。
「予備、ある?」
親友が青ざめて聞いた。
私は救護テントの箱から白い靴紐を取り出した。陸上部のマネージャーだから、こういうものだけは何でも持っている。
しゃがんで結び直そうとすると、アンカーが先に膝をついた。
「貸して」
器用な指で、親友の靴へ紐を通す。
親友はいつも強気なのに、今は声も出せずに見つめていた。
私は二人の間へ入れなかった。
同じ人を好きだと打ち明けたとき、親友は「競技みたいに順位がつけば楽なのに」と笑った。
本当に、スタートとゴールがあればよかった。
ピストルが鳴った。
親友は第三走者。私はトラック脇でタイムを測った。バトンを受け取った親友は、いつもより速かった。白い靴紐が夕日の中で跳ねる。
アンカーへ渡す直前、親友が少しよろけた。
それでもバトンはつながった。
アンカーは前の走者を抜き、ゴールテープを切った。
歓声が上がる。
親友はその場に座り込み、膝を押さえた。私は救護袋を持って走った。
アンカーのほうが先に戻ってきた。
「大丈夫?」
親友の前へしゃがみ、手を差し出す。
親友はその手を取った。
私は冷却スプレーを持ったまま、少し離れたところで止まった。
二人の目が合う。言葉は聞こえなかった。けれど、勝った喜びとは違うものがそこにあった。
「マネージャー!」
呼ばれて、私は近づいた。
親友の膝に大きな怪我はなかった。冷たいタオルを渡すと、親友は私の手をつかんだ。
「ごめん」
「何が」
「昨日、告白した」
私の時計はまだ動いていた。ゴール後の秒数だけが増えていく。
アンカーが親友の隣で、黙ってうつむいた。その沈黙が返事だった。
私は笑おうとした。
「結果、どうだった?」
親友の目から涙が落ちた。
「うれしいのに、あなたを見ると泣ける」
私も泣いた。
汗だと思われるよう、顔をタオルで強く拭いた。
表彰式で、二人は同じ列に並んだ。私はトラックの外から拍手した。
帰りに親友が、切れた靴紐を私へ返した。
「これは返す」
「白いほうは?」
親友は足元を見た。
「もう少し借りたい」
私はうなずいた。
結び目はほどけなかった。
その日、私の片思いだけがゴールへ届かなかった。でも、三人の時間まで失格にしたくなくて、翌日の部活にもいつもどおり冷たいタオルを持っていった。