黄色いワンピースの洗濯日
神代彩未のクローゼットには、灰色と紺色しかなかった。堅実に見える服を選び続けた結果だ。取引先では若く見られたくなく、社内では張り切っていると思われたくない。何も主張しない色なら、仕事だけを見てもらえる。黄色いワンピースを買った日は、旅先で知らない店員に「顔が明るく見える」と言われた。帰社後、似た色のブラウスを着た同僚が「目立ちたがりみたい」と笑われるのを聞き、彩未は一度も袖を通せなくなった。似合うかより、何と思われるかが先に服を選んだ。社内報の撮影でも後列を選び、昼食の店では「皆さんに合わせます」と言った。彩未は目立たないことで信頼を得てきたつもりだったが、最近は自分が何を選んだ日なのか思い出せなくなっていた。
天井工事の三週間、彩未は水落珂奈と短期の部屋を共有した。珂奈は舞台衣装の裁断をしていて、毎晩、派手な布切れを床へ広げた。赤い羽根、銀の網、葡萄色のベルベット。その中で彩未の荷物だけが雨雲のようだった。
ある朝、珂奈がクローゼットの奥から黄色いワンピースを見つけた。彩未が三年前、旅行先で買い、タグを外しただけの服だった。試着室では肌が明るく見え、店員にもよく似合うと言われた。帰宅して鏡を見ると急に大胆すぎる気がして、会社にも休日にも着ていけないまま奥へ押し込んだ。
「この服、誰に見つからないように隠れてるの?」
彩未は笑って、「私には派手だから」と答えた。
珂奈は服を戻さず、洗濯籠の上へ置いた。
「明日、洗ってみて。着るかどうかは、乾いてから決めればいい」
それ以上、似合うとも勇気を出せとも言わなかった。
翌日、彩未は黄色を他の服と分け、弱い水流で洗った。濡れた布は色が深くなり、ベランダで風を受けるたび、知らない人の旗のように揺れた。灰色のシャツの間では、黄色だけが風の強さを正直に見せていた。彩未はその揺れを、洗濯が終わるまで見ていた。向かいの建物から見える気がして、何度も室内へ取り込もうとした。
翌朝は部署の写真撮影があった。彩未はいつもの紺のパンツをベッドへ置き、ワンピースを身体に当てた。鏡の中で黄色だけが先に部屋を出たがっている。珂奈はまだ眠っていた。
彩未は一度ワンピースを脱ぎかけた。けれど、タグのない服をまた隠す理由は見つからなかった。
紺のパンツをハンガーへ戻し、黄色い裾を膝まで下ろした。