先に着いた検収印

 星環設備の決裁会議に、配送下請けの鯨井征路が呼ばれたのは、運転日報の確認だけだと聞かされていた。

 大型病院へ納めた非常用発電機四台、売上六億二千万円。検収書は三月三十一日午後四時四十分付。顧客担当者の署名と印鑑がそろっている。

「これで引渡し条件は満たしています」

 営業役員が説明した。

 征路は壁の時計を見た。午後四時四十分。その時刻を、彼は忘れられない。渋滞の車列で、病院から何度も到着確認の電話が来た。酸素設備の更新工事と重なり、午後七時を過ぎれば搬入口を閉めると言われ、四人の運転手は休憩も取らずに進んだ。

「その時間、発電機は高速道路の上でした」

 役員が資料から顔を上げた。

「一台目は先に着いていた」

「四台一括検収の契約です」

 征路は運転日報を開いた。事故渋滞で到着が遅れ、病院の搬入口を通過したのは午後六時十二分。守衛の受入印もある。四台を積んだ特殊車両は一列で走り、分割配送はしていない。

 征路は助手席で撮った写真も出した。午後四時四十七分、車窓にはまだ山間の料金案内板が写り、荷台の封印番号も読める。封印を切った記録は、病院到着後の午後六時二十八分だった。

「日報の時刻が間違っている可能性もある」

「高速料金の記録があります」

 午後五時二十一分、病院から八十キロ離れた料金所を四台とも通過していた。

 営業役員は検収書を指でたたいた。

「顧客が先に確認した。それだけだ」

「現物を見ずに検収した署名を、売上の根拠にするんですか」

 征路は契約書の一文を読み上げた。設置場所への搬入、外観確認、数量確認を終えた時点で所有権が移転する。

 社長が口を挟んだ。

「翌朝には据え付けた。数時間の差だ」

 監査役は、検収書の時刻と料金所の通過時刻を赤ペンで結んだ。

「その数時間が、年度をまたいでいる」

 征路の会社には、四月一日午前八時三分の搬入完了メールも残っていた。

 営業役員が「訂正印をもらえば」と言いかけたとき、議長は六億二千万円の決裁欄に太い横線を引いた。

「先に着いた印鑑では、機械を運べない。計上を止める」