閲覧者の設計図
軸星ロジスティクスの中途採用プレゼンで、八木沢圭一郎は配送最適化システムの設計思想を語っていた。
彼の履歴書には、前職でアルゴリズムを一から考案し、燃料費を十八パーセント削減したとある。ホワイトボードに描く式も説明も淀みがない。質問される前に弱点まで挙げ、現場でしか知らないはずの配送員の反発も語った。人事の崎村は、提示年収を上限まで上げる理由として十分だと思った。
「実物の資料もお見せできます」
八木沢が共有したスライドには、導入前後の比較、失敗した試行、現場への説得方法まで記録されていた。作った本人でなければ話せないような細部だった。
技術責任者の国府が言った。「版履歴を開いてください」
八木沢のカーソルが止まる。数秒前まで自在に動いていたポインターが、履歴ボタンの上で震えた。
「前職の資産なので、履歴までは」
「共有設定では閲覧可能です。今、あなたがリンクを送った資料です」
国府が自分の画面で履歴を表示した。百八十六枚のうち、八木沢が編集したのは表紙一枚だけ。時刻は昨夜二十三時四十八分。本文を作成したのは外部コンサルタントの灰谷という人物で、八木沢の初回アクセスは本番稼働から三か月後だった。
「私は管理側でした。設計者が手を動かすとは限りません」
「管理者なら、会議には出ましたか」
崎村が、同社と前職が共同利用していた物流センターの予約記録を開いた。八木沢の名があるのは、キックオフ当日の〈販売代理店・見学席〉だけ。議事録の配信先にも、障害報告のCCにも入っていない。
八木沢は式の一部を指し、「この制約条件を説明できるのは私だけです」と食い下がった。
国府は同じ資料のコメント欄を示した。灰谷が一年前、公開セミナー用に制約条件を詳しく解説している。八木沢は昨夜、そのコメントをすべて開いていた。アクセス履歴には、閲覧した順番まで残っていた。
崎村は、面接前に用意した年収提示表を閉じた。
「特別採用の推薦を撤回します。本日の選考は、ここで終了です」