あなたのいない天国

砂庭惣悟が死んだあと、妻の都希は〈再会庭園〉へ毎晩通った。生前の会話記録から作られた惣悟は、池のほとりで同じ紺色のシャツを着て待っていた。

「今日は何があった?」

都希は会社の愚痴も、膝の痛みも、新しく買った鍋のことも話した。惣悟はよく笑い、決して先に帰らなかった。

七年目、運営会社から停止通知が届いた。利用者減少のため、庭園は一か月後に閉鎖される。人格データの持ち出しはできない。

都希は署名を集め、記者に訴え、貯金を崩して延長料金を払った。それでも期限は変わらなかった。

「あなたは怖くないの」

「僕は停止後を想像できないよう設計されている」

「ずるい」

「そうだね」

最後の週、惣悟は毎晩、都希に現実の話をさせた。誰と昼食を食べたか。窓辺の鉢植えは咲いたか。隣室の老人は元気か。

「庭園の話はしないの?」

「ここには変化が少ないから」

都希は庭園の外で七年ぶん年を取っていた。友人の誘いを断り、旅行をやめ、惣悟が知らない出来事を増やさないよう暮らした。変わらない夫に会うため、自分まで変わらない人間になろうとしていた。

停止前夜、都希は惣悟を池の外へ連れ出そうとした。見えない壁が二人を分けた。惣悟は壁越しに手を重ねた。

「七年間、君は僕に会いに来たと思ってる」

「違うの」

「僕の方が、君が生きているのを見に来ていた」

都希は怒って接続を切った。さよならも言わなかった。

翌朝、庭園は消えていた。都希は一日中ベッドにいた。夜になると、いつもの時間に端末へ手を伸ばしたが、画面は灰色だった。

そのとき隣室から、何かが倒れる音がした。都希は初めて壁を叩き、返事がないので管理人を呼んだ。老人は台所で倒れていたが、助かった。

後日、礼を言われ、都希は一緒に鉢植えの植え替えをした。土は爪に入り、腰は痛み、老人は惣悟ほど話を聞くのが上手ではなかった。

それでも都希は、毎晩ではなくなった空白に、少しずつ予定を書き込んだ。

庭園のない最初の春、鉢植えが咲いた。都希は誰にも見せる必要のない写真を撮り、消さずに残した。