かぼちゃの皮を先に
加納汐里は、家族会議の開始五分前に、祖母のかぼちゃ煮を温めた。
画面の向こうには母、叔父、兄がそろう予定だった。議題は、一人暮らしになった祖父のこと。買い物と通院を誰が担当するか、家族のチャットではもう答えが決まっている。
〈汐里は在宅勤務だから、平日動けるよね〉
誰も命令していない。だから断りにくい。祖父本人は〈週一回の配食で足りる〉と言っているのに、家族は毎日誰かが顔を出す予定を作った。心配を訪問回数へ変えれば安心できるらしい。汐里も一度、〈大丈夫〉と返した。ほんとうは来月からチームの責任者になり、昼休みさえ不規則になる。それ以上に、介護を当然のように引き受けるのが怖かった。
母が届けたかぼちゃ煮は、亡くなった祖母のレシピだった。厚い皮を残し、面取りはしない。出汁の甘い香りが立ち、温まった器が両手へ重い。箸を入れると中はやわらかく、皮だけが形を保っている。
祖母は食卓で、家族が残した皮をいつも自分の小皿へ集めた。
「好きだから」と言っていたが、汐里は大人になって気づいた。祖母は、煮崩れた中心を子どもへ渡し、固い端を自分の分にしていた。食事だけではない。病院の付き添いも、法事の支度も、最後に残った仕事は祖母のところへ集まった。祖母が入院したときは母へ、母が疲れた今は汐里へ。同じ皿が、女の手から女の手へ回っているようだった。祖父を大切に思うことと、その皿を受け取ることは別のはずだった。
汐里は一切れを取り、いつものように中心から食べかけた。そこで向きを変え、皮へ歯を立てる。少し硬い皮を先に噛み、甘い中身を皿へ残した。
会議の通知音が鳴る。
画面には、母が作った予定表が共有されていた。平日の欄は、すでに汐里の名前で埋まっている。
汐里は残した中心を箸で二つに分けた。一方を今夜、もう一方を明日の分にする。全部を一度に引き受ける食べ方をやめる。
マイクを入れる前に、予定表を修正した。汐里の担当は月に二回。空いた欄へ、訪問介護の相談日と、家族三人の名前を順に入れる。
「大丈夫」とは言わなかった。
皿には、明日へ残した半分があった。祖母のように、最後の端まで一人で食べる必要はなかった。