しおりは購買のレシート
三廻部紬が借りた文庫本には、購買のレシートが挟まっていた。
日付は去年の六月十三日。焼きそばパン二個、牛乳一本、いちごジャムパン一個。
貸してくれたのは、同じクラスの瀬尾だった。
「栞、勝手に捨てないで」と言われたので、紬は読んだ頁へそのレシートを移しながら一週間過ごした。
内容より、買い物の組み合わせが気になった。
焼きそばパン二個も食べるのか。牛乳とジャムパンを合わせるのか。去年の六月十三日に何があったのか。
金曜の放課後、本を返すときに訊いた。
「このレシート、大事なの?」
「何が」
「栞」
瀬尾は日付を見て、急に笑った。
「それ、三廻部の日じゃん」
「私?」
「覚えてない?」
去年の六月十三日。雨で体育祭の予行が中止になった日だった。
紬は財布を忘れ、弁当も持っていなかった。友達には言えず、昼休みに図書室で空腹をごまかしていた。
そのとき机へ、ジャムパンと牛乳が置かれた。
『購買の人が数を間違えたらしい』
そう言ったのは瀬尾だった。
紬は本当に間違いだと思い、礼だけ言って食べた。
「じゃあ焼きそばパン二個は」
「俺の。間違えたのは嘘」
「一年も黙ってたの?」
「言ったら返せって言いそうだったから」
「返すよ。今」
紬は鞄を探った。財布には百七十円しかない。
「足りない」
「利子ついてるから」
「いくら」
「来週、この本の続き貸す。それ読んだら感想」
「それ、返済じゃなくて瀬尾が得するだけ」
「じゃあ、焼きそばパン半分」
二人で購買へ行ったが、放課後なので棚は空だった。
自動販売機で紙パックの牛乳を一本買い、半分ずつ飲んだ。百七十円から、ちょうど足りた。
紬は新しいレシートを受け取り、古いものと重ねた。
「これも栞にして」
「何の日?」
「借りたものを返し始めた日」
瀬尾は二枚を文庫本へ挟んだ。
古い紙と新しい紙が重なると、一年前の昼休みと今の放課後が、同じ頁の中でようやくつながったように見えた。
翌週借りた続編には、栞が三枚入っていた。古い二枚の間に、焼きそばパン一個のレシートが増えていた。
裏には、『半分、放課後に』と書いてあった。