まねる王

 亜澄が斬れば、鏡王も斬った。

 亜澄が跳べば、鏡王も同じ高さまで跳ぶ。

 四人の攻撃はすべて同じ動きで返され、玉座の間にはプレイヤー側の墓だけが増えていた。

【鏡王】

【最後に受けたプレイヤー行動を、一度だけ完全模倣する】

 火を浴びせれば火、回復薬を投げれば回復動作までコピーする。攻略者は威力や速度を上げれば勝てると思い、より大きな攻撃を教え続けた。その結果、鏡王はサーバー中の必殺技を覚えた怪物になった。けれど攻撃の合間、王は亜澄と同じ呼吸をし、同じように疲れた肩を押さえていた。憎しみすら、自分で選んだ表情ではないように見えた。

「攻撃を受ける前に倒すしかない!」

 仲間は必殺技を準備した。だが亜澄は、鏡王の足元に散らばる奇妙な痕跡を見ていた。剣傷、魔法陣、矢。何百人もの攻略者が試した行動ばかりだ。隅には一つだけ、握手のエモートで生まれる小さな光が残っている。

 誰かが戦わずに話そうとした。けれど握手も模倣されただけで終わったのだろう。

 亜澄は武器をしまい、メニューを開いた。

「何してる、アスミ!」

「こいつ、私たちができることしかできないんだ」

 ダンジョン内ではログアウトボタンが灰色になっている。押しても《使用不可》と出るだけだ。それでも「行動」として記録されるなら。亜澄は、敵へ攻撃方法を教えるのではなく、ここから去ろうとする仕草を一度も見せていなかったことに気づいた。倒すことしか試さなかったのは、王ではなく攻略者の側だ。

 亜澄は灰色のボタンを押した。

【この場所ではログアウトできません】

 鏡王の胸に同じメニューが浮かぶ。王はためらうように指を伸ばし、存在しないはずのログアウトボタンを押した。

 その身体が、戦闘エフェクトではなく細い通信光へ変わっていく。

「まさか、ボスが逃げた?」

 空になった玉座から、小さな子供の声がした。

『やっと、帰り方を見せてもらえた』

 直後、亜澄の灰色だったボタンが青く点灯した。

【ボス《鏡王》がログアウトしました】

【メインクエスト《鏡王討伐》対象消失】

【隠しクエスト《先に帰してあげる》達成】

【鏡王が保持していたログアウト権限を、実行者へ継承します】