カワウソランドリーの青い靴下

 折原直惟は、息子が大学へ進んで家を出してから、洗濯物が急に減った。

 タオルは一日一枚。シャツも靴下も、自分の分だけ。静かな洗濯機はすぐ止まり、干す場所だけが余った。

 ある日、青い靴下が片方なくなった。

 息子が父の日にくれたもので、派手すぎると言いながら、直惟は休日によく履いていた。洗濯槽、ソファの下、押入れまで探したが見つからない。

 諦めきれず、近所の「カワウソランドリー」へ相談へ行った。

 店主のすすぎは、首にタオルを巻いたカワウソだ。人間の店員と一緒に、洗濯代行と小さな喫茶をしている。

「家で失くした靴下も捜せますか」

「水辺の捜索は得意です」

「家に川はありません」

「洗濯機は小さな川です」

 すすぎは直惟の布団カバーや衣類を大きな機械へ入れた。

「一度、全部泳がせましょう」

 待つ間、直惟はカフェ席でバタートーストを頼んだ。すすぎはパンの耳だけを器用に齧る真似をし、人間の店員に「商品で遊ばない」と叱られている。

「靴下一枚で、ずいぶん真剣ですね」

 すすぎが言う。

「物を大事にしてるだけです」

「誰からの物?」

「息子です」

「なるほど。靴下ではなく、片方になった家を捜している」

「カワウソにそこまで言われたくないな」

 直惟は笑った。

 乾燥が終わり、すすぎが布団カバーを振ると、中から青い靴下が転がった。角へ入り込んでいたらしい。

「発見」

 すすぎは両前足で掲げた。

「料金は?」

「トーストのお代だけ。捜索は川からの贈り物です」

 直惟は息子へ写真を送った。

〈見つかった〉

 しばらくして、〈まだ履いてたの。次はもう少し地味なの送る〉と返事が来た。

〈派手でいい〉と打つと、笑う顔の印が届いた。

 店を出る前、すすぎが「片方ずつでも履けますよ」と言った。

「今日はそろったから、そろえて履く」

「一人分でも一組ですね」

 家へ戻り、青い靴下を窓辺に干した。洗剤と乾燥機の温かな匂いが部屋へ広がる。夕方の光の中で二枚は少し違う向きに揺れていたが、離れてはいなかった。

 直惟は息子のいない食卓へ珈琲を置き、カワウソランドリーでもらった小さなラスクを齧った。静かな家は、空っぽではなく、一人分の暮らしがよく乾く広さになっていた。